OEKfan > 演奏会レビュー

オーケストラ・アンサンブル金沢富山特別公演
2022年08月21日(日)15:00~ オーバードホール(富山市)

1) グラズノフ/弦楽のための主題と変奏ト短調, op.97
2) グラズノフ/アルト・サクソフォンと弦楽オーケストラのための協奏曲
3) ヤイロ/ドリームウィーバー
4) ドブロゴス/テ・デウム
5) ドブロゴス/ミサ
6) (アンコール)ふるさと

●演奏
山下一史指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松浦奈々),木村綾子(ソプラノ*3),角口圭都(サクソフォン*2),合唱団OEKとやま*3-6



Review by 管理人hs  

8月のお盆休み明けの日曜日恒例のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と合唱団OEKとやまによる富山特別公演を、富山駅前のオーバードホールで聞いてきました。



同じ時間帯、金沢ではいしかわミュージックアカデミーの講師による室内楽公演を行っており、そちらにも行きたかったのですが、8月になってOEKを聞いていないことと、久しぶりに富山市に行ってみたくなり、こちらを選択しました。今年の夏もコロナ禍の影響が続いており、気軽に行楽に出かける気分になりにくいのですが、「せめて富山でも」という思いで聞きに行くことにしました。

毎年この公演では20世紀以降の作曲家による宗教曲を取り上げるのが恒例で、今年はドブロゴスというアメリカの作曲家による,テ・デウムとミサ曲が後半に演奏されました。それに加え、富山市出身のサクソフォン奏者,角口圭都さんと金沢市出身のソプラノ歌手木村綾子さんが出演したのが新趣向だったかもしれません。

目玉の「新しめの宗教曲」ですが、今年もまた素晴らしい曲を楽しむことができました。聞く前は、最後に演奏されたドブロゴスの曲だけを注目していたのですが、実は前半最後のヤイロ作曲の「ドリームウィーバー」、後半最初の「テ・デウム」も素晴らしい曲。どの曲も親しみやすさと新鮮さがある点で共通するムードがあり、全体として,とてもまとまりの良いプログラムとなっていました。この日のOEKの編成は、弦楽メンバーのみ(レクイエムとドリームウィーバーでは、ピアノも参加)でした。おそらく、レクイエムの編成に合わせて、他の曲も選んだのだと思いますが、これも統一感を作るのに役だっていました。

最後に演奏されたドブロゴスのミサ曲は、作曲者自身がジャズピアニストということもあり、随所にジャズのテイストが漂っていました。合唱に加え、第1曲からこのピアノが活躍しており、曲のサウンドの核になっている感じでした。ミュージカルを思わせる雰囲気になったり,ジャズのテイストが出てきたり,合唱とピアノがシリアスな対話をしたり...全く退屈することがありませんでした。

第1曲「入祭唱」は,合唱なし。文字通り全曲のイントロでした。弦楽器の厚みのある響きの後,ピアノがリズムを刻み始めると,一気にポップな感じになりました。第2曲「キリエ」は,「キリエ,キリエ...」といった感じのせわしない感じの繰り返しが印象的でした。ほの暗く,半音階的な動きがジャズっぽくて格好良かったですね。

第3曲「グロリア」は,意表を突いて静かな感じで開始。無伴奏でつぶやくような合唱とピアノとが交互に出てくる当たり,不思議なインパクトがありました。その後,弦楽器が入ってきて,音楽が大きく広がっていく感じも良かったですね。

第4曲「クレド」は,切迫感のあるピアノがリズムを刻みながら,音楽がグイグイと進み,壮大な雰囲気に盛り上がっていきました。第3曲の最後の「アーメン」は素っ気なかったのですが,この曲の締めの方は感動がこもった「アーメン」。色々な表現の対比が面白い曲だなぁと思いました。

第5曲「サンクトゥス」は大胆な気分の和音で開始。新鮮で光が差し込んでくるような雰囲気がありました。自在に変化するジャズっぽさと荘厳なクラシカルな気分が融合した魅力的な音楽でした。ホザンナという言葉も何回も繰り返し出てきましたが,そのジャズっぽい繰り返しも面白いなと思いました。

最後の第6曲「アニュス・デイ」にも,静かな感動を秘めつつも,どこか気軽にラウンジで演奏を楽しんでいるような雰囲気もあり,最後まで新鮮でリラックスした癒やしの気分を楽しむことができました。まさに新鮮な美しさをもったレクイエムでした。「合唱の世界では人気の曲」ということも納得という曲だと実感しました。

後半の最初に演奏された,「テ・デウム」の方は,対照的に全曲を通じて静かな雰囲気がありました。暖かみのある響きが続いた後,大きく盛り上がり,祈りの気分が高まっていきました。速い音の動きがあまりなかったので..「催眠効果」も感じてしまいましたが(この演奏会の前に,かなり歩き回ったので...),その天国的な気分は,とても魅力的でした。

前半最後に演奏された,ノルウェイ出身でアメリカで活躍するヤイロ作曲の「ドリームウィーヴァー(夢を織るもの)」は7曲からなる作品で,合唱+弦楽合奏+ピアノという編成の面でも,ドブロゴスのレクイエムと共通する部分がありました。さらには,いくつかの曲で木村綾子さんのソプラノが加わっていた点が特徴でした。木村さんの声には,素朴な暖かみがあり,この曲全体に漂う,平易で飾りすぎない美しさにふさわしいと思いました。

1曲目「序章」は,落ち着いた語り口で開始。この曲は,ノルウェイに中世から伝わる物語歌(バラッド)を題材にしており,主人公が見た夢を教会で語るというところから始まります。その物語に美しく誘ってくれるような曲でした。2曲目「夢の歌」には,ソプラノ独唱やピアノが加わりました。物語が一気に動き出していくような雰囲気がありました。この曲以外の曲もそうだったのですが,同じ音型の繰り返しが印象的で,「現代の癒し」とミニマルミュージックにどこか通じるものがあるのでは,と思いました。

第3曲「橋」には,暗い気分にどんどんはまっていくような感じになった後,後半はソプラノも加わって,だんだんと明るい未来が広がっていくようでした。不思議な心地よさのある曲でした。

第4曲「間奏曲」では,合唱はお休み。静かで心地よい「つなぎ」の音楽という感じでした。

第5曲「楽園」には穏やかな美しさがありました。この日のゲスト・コンサートマスターは松浦奈々さん(マスクをされていたので,自信はないのですが,多分そのはず)で,この曲以外でも,存在感のある美しい音を要所要所で聴かせてくれました。第6曲「神の主権」は,不思議なキラキラ感のある神々しい音楽。音が美しく溶けあっていました。

最後は,第7曲「終章」。明るいけれども重苦しさもある音楽で,どこか懐かしい気分がありました。納得して全曲が締めるといった感じの曲でした。

合唱団メンバーは、今回はマスク(合唱用の特製マスクでしょうか)をしたままの歌唱でした。そのせいか,どの曲についても,柔らかなまろやかさを感じました。レクイエムでの多彩な表現 テ・デウムでの落ち着き,ヤイロの曲での親しみやすさが良いなと思いました。

前半に演奏されたグラズノフのサクソフォン協奏曲も、今回楽しみにしていた作品でした。落ち着きのある弦のユニゾンの後、角口さんのサクソフォンが入ってくると、すっと色あいが増したよう。要所要所で,鮮やかな技巧を楽しませてくれつつも、オーケストラと激しく競い合うような感じはなく、オーケストラと一体となって、哀愁のある暗さと甘さの漂う音楽をしっとりと聞かせてくれました。

この曲は単一楽章の曲でしたが,実質的には,急ー緩ー急の3部から成っていました。特に中間部での,弦楽とサックスのしみじみとした静かな対話が素晴らしいと思いました。個人的にサックスという楽器については「押しの強いジャズの楽器」という印象もあったのですが,この日の演奏には,室内楽的な音の溶けあいが感じられ,クラシック音楽用の楽器としてのサックスの魅力をしっかりと伝えてくれました。

最後は,活発な動きのある部分になりますが,ここでも品の良さと哀愁が漂い,乱暴な感じがないのが良いなと思いました。

最初に演奏された,同じグラズノフの「弦楽のための主題と変奏」も,協奏曲の雰囲気はぴったり合っていました。西欧風とスラブ風が融合した弦楽合奏曲ということで、チャイコフスキーの弦楽セレナードのテイストを引き継いでいるような魅力を感じました。

この日の会場はオーバード・ホール。個人的に,このホールに入るのは,井上道義さん指揮OEKによる,モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」公演以来で,聞く前は,OEKには広すぎるかなと思っていたのですが,とてもバランスよく音楽を楽しむことができました。1階席に座るのは初めてのことでしたが(この日は1階席だけ使っていました),合唱付きのオーケストラ曲をゆったりと楽しむにはちょうど良いと感じました。


1階席から上の階を見上げてみました。

公演の最後に,指揮者の山下一史さんから、今回は,平和を祈ってレクイエムを演奏したといった挨拶があった後、アンコールで恒例の「ふるさと」が演奏されました。マスクの中で、一緒にハミングしながら「参加」したのですが,レクイエムの後だと、賛美歌のように響くなぁ,と思いました。

この日は、演奏会の前に富山県美術館(ホールから徒歩15分ぐらいのところ)で「ジョアン・ミロ展」を満てきました。こちらも大変充実した内容で,久しぶりに,石川県の外で美術と音楽をセットで楽しむことができました。お土産も色々と購入し,旅行気分も満喫できた一日でした。



PS.金沢~富山の「小旅行」+「ミロ展」についいては,次のページにもまとめてみました。
https://oekfan.blogspot.com/2022/08/oek.html

(2022/08/12)