OEKfan > 演奏会レビュー

ランチタイムコンサート:オーケストラ・アンサンブル金沢の名手たちによる木管アンサンブルの調べ
2022年9月6日(火)12:15~ 石川県立音楽堂コンサートホール

1) フマガッリ/演奏会用大三重奏曲,op.40
2) ボール/4つの舞曲
3) サン=サーンス/デンマークとロシアの歌による奇想曲, op.79

●演奏
松木さや(フルート),加納律子(オーボエ),遠藤文江(クラリネット),倉戸テル(ピアノ*1,3)



Review by 管理人hs  

この日の金沢は台風の接近に伴うフェーン現象気味で午前中から猛暑(38.5度まで上昇し,金沢での過去最高記憶になりました)。その中,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の3人の木管楽器奏者(フルート:松木さや,オーボエ:加納律子,クラリネット:遠藤文江)と倉戸テルさんのピアノによるランチタイム・コンサートを石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。

実は今回,「夏休み」をわざわざ取って聴いてきました。その理由は,今年の春の楽都音楽祭でこの3人による室内楽公演を聞き逃した「無念さ」があったからです。そのリベンジの思いで聴いてきました。

ただし公演内容は全く違うものでした。,楽都音楽祭の時は,各楽器のソロだったのに対し,今回はすべて,3つの木管楽器が入る室内楽曲でした。演奏されたのは,フマガッリの演奏会用大三重奏曲, ボールの4つの舞曲,そして,サン=サーンスのデンマークとロシアの歌による奇想曲...知らない曲ばかり,しかも,フマガッリとボールについては,作曲者名自体聴くのは初めてでした。

言ってみれば,演奏者の方がやってみたい曲を集めた,”攻めた”プログラムだったのですが,聴いてみるとどれも親しみやすい曲ばかりで,大変充実した時間を過ごすこともできました。暑さにもかかわらず,お客さんは良い感じで入っており,私同様,「この3人の演奏なら悪いはずはない」という期待感と満足感が合わさった雰囲気の演奏会となりました。



まず,フマガッリの曲の冒頭,3つの楽器の絶妙のハモリを聴いただけで華やかな気分になりました。素晴らしいバランス,素晴らしい音響(本日は1階席の真ん中)。イタリア・オペラの幕が開いたようなワクワク感がありました(この当時流行していた,オペラの一部を器楽で演奏するパラフレーズ的な曲でした)。その後,各楽器のソロが出てきたり,絡み合って盛り上がっていったり...大変良くできた作品でした。3人の奏者の余裕のある技巧と美音に彩られた,とても気持ちの良い作品でした。3人の演奏には,急速な部分でも慌てた感じはなく,全曲を通じて上機嫌な気分に彩られ,曲の最後の部分には3本の花が美しく花開いたような雰囲気がありました。

2曲目のボールの作品では,ピアノは入らず,純粋に木管三重奏となりました。ボールという人は20世紀の英国の指揮者・作曲家ということでしたが,フマガッリ以上に親しみやすさのある作品でした。曲は,第1曲「陽気なダンス」,第2曲「叙情的なダンス」,第3曲「輪舞」,第4曲「スクェア・ダンス」の4曲から成っていました。

きびきびした感じと優雅な雰囲気が合わさった1曲目の後,2曲目がゆったりとした音楽(加納さんのオーボエがエキゾティックで魅力的),3曲目がはねるようなスケルツォ的な音楽,でしたので,全体的な構成としては4楽章の小交響曲とも言えるかもしれません。

4曲目はスクエアダンスということで,文字通りカッチリとした雰囲気もありましたが,遠藤さんのクラリネットがなんともユーモラスで,ラグタイムなどに通じるような素朴な楽しさもありました。フルートの松木さんも途中,ピッコロに持ち替えるなど,大活躍。曲の終わり方も常套的な「チャン,チャン」という感じだったのも楽しかったですね。

3曲目のサン=サーンスの作品(没後100年を記念して選曲)は,演奏前の加納さんのトークによると,デンマークとロシアの王室の友好を意図して作られた作品とのことでした。その気分で聴いたせいか,冒頭から「ロイヤル!」な気分が漂い,倉戸さんのピアノのフレーズなど,ベートーヴェンの「皇帝」を思わせる優雅な華やかさがありました。デンマーク民謡とロシア民謡をそれぞれ展開させた作品ということで,松木さんによるしっとりとした主題の提示部分(どっちがどっちかは分からなかったのですが)から,とても魅力的でした。

最後の方で,ユニゾンで演奏する部分が出てきたのが印象的でしたが(がっちりと握手をしているイメージでしょうか),戦争がまだ継続している昨今,「ウクライナとロシアの歌による○○」といった曲があれば聴いてみたいものだと思いました。

演奏後のアンコールがなかったのも,この日の場合,良かったと思います。トークを合わせて,1時間弱の公演でしたが,3人の奏者の作り出す,軽やかな華やかさに包まれた,心地の良い公演でした。ただし,外に出ると...急にムッとした空気に包まれ,現実に戻されてしまいましたが。


どこか不穏な雰囲気のある雲でした。

(2022/09/09)