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石井啓一郎ヴァイオリン・リサイタル
2008/06/11 東京文化会館小ホール
エルガー/朝の歌
ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調,op.24「春」
ピツェッティ/許嫁に寄する三つの歌
ニールセン/ヴァイオリン・ソナタ第2番op.35
コダーイ(シゲティ編曲)/組曲「ハーリ・ヤーノシュ」〜間奏曲
(アンコール)メラルティン/子守歌
(アンコール)ポリアキン/カナリア
●演奏
石井啓一郎(ヴァイオリン),石井啓子(ピアノ)
Review by 管理人hs  
会場前の掲示

公演のリーフレットとチケットとチラシ

2泊3日の東京出張のついでに,毎度のことながら,クラシック音楽の演奏会に出かけてきました。今回は,演奏者が誰かということよりも,これまで行ったことのないホールに入ってみたいという理由から,東京文化会館ホール小ホールで行われた石井啓一郎ヴァイオリン・リサイタルに出かけてきました。今回,宿を上野に取っており,遠くまで行くエネルギーが残っていなかったというのもこの公演を選んだ理由の一つです。

東京文化会館の大ホールについては,数年前一度行ったことはあるのですが,小ホールの方もとても良いホールでした。一目見れば,「東京文化会館だ」と分かる,いかにも芸術的な内装です。大ホール共々,”1960年代の現代芸術”といった独特の雰囲気が建物内に漂っています。ホール全体の作りがゆったりとしているのも気に入りました。私が,東京のホールで行ったことのあるのは,サントリーホール,オーチャードホール,東京芸術劇場ぐらいですが,その中ではいちばん好きなホールです。

さて,演奏会の内容についてです。演奏者の方には申し訳ないのですが,会場に入るまで石井啓一郎さんという方が一体どういう方なのか全く知りませんでした。プログラムの写真を見た後,そして,ステージに登場された石井さんを見た瞬間,「和製イヴリー・ギトリスかな」という雰囲気をお持ちの方でした。プロフィールによると,現在,日本フィルハーモニー交響楽団のヴァイオリン奏者として活躍されている方とのことです。オーケストラの一団員というと,ちょっとサラリーマン的な先入観を持ってしまうのですが,そういう雰囲気とは正反対の,大変,個性的な方でした。

この”個性”ですが,風貌だけではなく,プログラミングや演奏にも表れていました。今回演奏された曲は上述のとおり,多種多様でした。ベートーヴェンの「スプリング・ソナタ」は大変有名な曲ですが,それ以外の曲は,私自身初めて聞く”知る人ぞ知る”というような曲が中心でした。演奏の方もどちらかというと,それらの珍品の方が楽しめました。

「スプリング・ソナタ」は,独特の演奏でした。音楽の流れがかなり気まぐれで,常に揺れ動いている感じでした。ただ,音が抜けたり,かすれたりといった部分もあったので,「味がある」というよりは,「崩れた演奏」と感じてしまいました。第2楽章のちょっと不気味な雰囲気など,とても個性的ではあったのですが,聞き手によって好みの分かれる演奏だったと思います。

石井さんの演奏では,この定番曲以外は,とても楽しめました。逆に言うと,定番曲を演奏する怖さが現れていたとも言えます。最初に演奏されたエルガーの「朝の歌」は,どこかで聞いたことがあるような気がしました。「春」とは逆に崩し方がとても様にになっており,絶好の導入曲となっていました。

前半最後に演奏されたピツェッティの作品は,曲を聞くのも初めてならば,作曲者の名前を聞くのも初めてでした。1880年生まれ,1968年に没したイタリアの作曲家による,「愛らしく」「嘆き」「情熱」と題された3つの楽章から成る作品でしたが,この曲を石井さんは譜面なしで演奏されました。「春」の時は楽譜を見ながら演奏されていましたが,やはり,この曲の演奏の方が,自分のものになっているなぁ,という気がしました。現代の作曲家の曲ですが,とてもまとまりの良い作品だと思いました。

後半のニールセンのヴァイオリン・ソナタ第2番も初めて聞く作品でした。最初の楽章は,何となくつかみどころのない感じでしたが,執拗な繰り返しの続く第2楽章の切実さや,軽さと明るさと不思議さとが同居したような第3楽章など,とても個性的な作品だと思いました。静かにスッと終わった第3楽章の終結部など,とても粋だと思いました。石井さんの硬質な音も曲の雰囲気に合っていると思いました。

演奏会の最後に演奏されたのは,コダーイの組曲「ハーリ・ヤーノシュ」の中の1曲をシゲティがヴァイオリン用に編曲したものでした。オーケストラ演奏では聞いたことのある曲ですが,こうやって聞くとまさにハンガリー舞曲でした。ハンガリーの酒場などでは,こういう感じの野生的な音楽が流れているのだろうなぁと勝手に想像しながら聞いていました。ノリの良い音楽とむせぶような高音を聞かせる部分とが自由自在に交錯する演奏で,石井さんの十八番に違いないと思いました。

この演奏で大いに盛り上がり,アンコールが2曲演奏されました。通常ならば,ハンガリーつながりでブラームスのハンガリー舞曲辺りが演奏されそうなものですが,ここでも「知る人ぞ知る」レパートリーを披露する辺り,石井さんの面目躍如という感じでした。

最初にメラルティンというフィンランドの作曲家による「子守歌」が演奏されました。親しみやすい歌曲のような作品で,アンコールにぴったりの佳曲でした。きっと北欧には,この曲のような,知られざる作品がまだ沢山埋もれているのではないかと思いました。

アンコール2曲目に演奏されたのは,ポリアキンという人の作った「カナリア」というポルカでした。序奏に続いて,鳥の鳴き声を真似たような特徴的な高音が続出するとても面白い曲でした(サン=サーンスの「動物の謝肉祭」の中にもこううような高音の出てくる曲があったと思います)。最後の方ではカデンツァ風の部分もあり,大いに盛り上がりました。石井さんによると,この曲のメロディは,ドイツ人ならば誰でもよく知っているものなのだそうです。この曲もまた,石井さんの十八番なのではないかと思います。

このように,今回は,たまたま聞きに行った演奏会だったのですが,日頃聞くことのできないような曲を沢山楽しむことができました。石井さんの演奏については,きっと,また,どこかで聞くことができるような気がします。(2008/06/14)

(番外)上野動物園&上野公園
今回,ふらふらと上野動物園にも入ってきました。私が小学生だった時以来のことでなつかしくなりました。NHKの「篤姫」関係で,西郷さんの顔も見たくなり上野公園の中も散策してみました。
入口です。お隣の東京都美術館に行ってみようと思って出かけたのですが,陽気に釣られて,動物園の方に入ってしまいました。値段は600円ということでお手ごろでした。
入口のすぐそばにパンダがいるはずだったのですが,残念ながら最近亡くなってしまいました。 トラです。動物園には欠かせない動物ですね。
ゾウです。動物園の中心に居ました。こちらも動物園の主役です。
お土産店では,相変わらずパンダが主役でした。 何という名前か忘れましたが,哀愁をもった雰囲気がありました。
フラミンゴです。色が華やかで,大勢いて,何かギャギャアと言っているということで,動物園の盛り上げ役という感じです。 不忍池の傍に居たペリカンです。今回見た動物の中でいちばん気に入りました。見事な嘴です。 道路を鳥が連れだって歩いていました。どういう関係でしょうか?親子というよりは,友人という雰囲気でした。
行くまでよく知らなかったのですが,不忍池と上野動物園は,半分ほど一体化していました。よい天気だったので,大変爽快な気分に浸れました。 動物園を出て,上野公園の方に戻りました。これは是非見なければ...と西郷さんの銅像を見てきました。この銅像も愛嬌と存在感たっぷりで,大変インパクトがありました。 そのそばに上野の森美術館というのがありました。大勢の若者が列を作っていたのですが,井上雄彦というマンガ家の展覧会を行っていたようです。美術館の壁面にはこのような大きな壁画が描かれていました。



東京文化会館写真集

東京文化会館の写真です。演奏会の休憩中に気軽に外に出られる雰囲気も良いと思いました。


JR上野駅付近にあったオブジェです。


JR上野駅と東京文化会館には狭い道路を一つ挟んで隣接しています。これはJR上野駅側から見た上野駅です。


こちらは正面玄関です。


小ホールの方から大ホールのロビーを望んだ写真です。この日,大ホールでは,「モーリス・ベジャール」関連のバレエ公演が行われていたようです。こちらも見てみたかったのですが...かなり高そうな雰囲気だったのでやめておきました。


チラシ&ポスターコーナーです。壮観という感じでした。


こちらは,売店コーナーです。ついつい購入したくなるような雰囲気があります。


ホール名の書かれた,垂れ幕が至るところにありました。


終演後に外から見た光景です。

今回出かけた,小ホールの方は,建物が三角錐のような形になっていました。ステージ上の天井が高く,壁面がコンクリートということで,とても豊かでしっかりとした響きが伝わってきました。何よりも,昭和時代以降の名演奏が染み込んでいるような雰囲気があるのが素晴らしいと思いました。


(参考)
以前,上野を訪れたときの記録です。同じようなことをしていたようです。

2004年2月 東京シティフィル