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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2017 レビュー・トップページ
5月3日(水・祝) 本公演1日目 5月3日からは,ガル祭本公演になります。今回は夜遅くまでかかる,ピアノ・ソナタ全曲演奏シリーズとピアノ協奏曲全曲演奏を中心に公演を選びましたので,その反動として,交響曲全曲演奏シリーズの方は,全部聞くことを断念しました。 というわけで,まず,9:45スタートの交響曲第1番には行かず,この日は,11時のピアノ協奏曲第4番からスタートしました。 【H11】11:00〜 石川県立音楽堂邦楽ホール 1) ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番ト長調 2) ショパン/幻想即興曲 ●演奏 アンナ・フェドロヴァ(ピアノ) ユベール・スダーン指揮オーケストラ・アンサンブル金沢*1 今回,ピアノ協奏曲のチケットは,「座席はおまかせ」のセット券で購入しました。その結果,座席はいつも座らないような真ん中前方という素晴らしい場所が当たりました。ただしこのホールにオーケストラが入ると残響はほぼゼロ。楽器のニュアンスがよく分かりましたが,いつも聞いているコンサートホールとは響きが全然違い,少々とまどいました。 フェドロヴァさんの作る音は,明るすぎない憂いのようなものがあり,この曲のロマンティックな側面にぴったりでした。第2楽章から第3楽章に掛けて,内向的な気分から外向的な気分へと切り替わる様子も,大変鮮やかに感じられました。 その後,ショパンの幻想即興曲が演奏されました。冒頭の右手と左手の拍子がずれているように聞こえる部分ですが,どうもうまく割り切れなかった(?)のか,なかなかメロディが出てこなかったですね。こちらも憂いを持った演奏でした。 アンナ・フェドロヴァさんのサイン チケットボックス付近の通路にはOEKのブースが出来ており,時々,メンバーや関係者が待機していました。 こちらも恒例の音楽祭のスナップ写真コーナー。まだ始まったばかりです。 音楽堂前の広場です。 1) ベートーヴェン/ロマンス第2番 2) ベートーヴェン/ロマンス第1番 3) ベートーヴェン/交響曲第8番 ●演奏 ノエ・乾(ヴァイオリン*1-2) 広上淳一指揮高雄市交響楽団 まず,ノエ・乾さんのソロによるロマンス×2曲が演奏されました。ノエさんの音は,大変軽やかで,やや味が薄い気はしましたが,その分,大変爽快でした。2曲続けて聞くと,内向的な気分を持った第1番の方が良いなぁと感じました。広上さん指揮のオーケストラの方には,雄大は海を感じさせるような安心感がありました。その上にヴァイオリンがゆったりと漂う感じが魅力的でした。 交響曲第8番の方は,近年の広上さんらしく「じっくりと熱く」大交響曲のように聞かせてくれました。オーケストラの編成自体は,OEKと同様でしたが,響きはOEKよりやや薄い印象でした。それでも広上さんの指揮の下,豪放な雰囲気を出していました。全曲を通じて大らかさがあり,急速なテンポで大慌てで演奏される第4楽章などが,往年の巨匠指揮者を思わせる立派さがありました。 この曲は結構「全休止」が多いのですが,まさにそのタイミングで「ウー」という感じで子供の声が入りました。演奏者には申し訳なかったのですが,ちょとウケてしまいました。第1楽章の呈示部だったのですが,繰り返しの時はノープロブレムだたのでほっとしました 【H12】13:20〜 石川県立音楽堂邦楽ホール 1) ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」〜春,冬 2) ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第9番「ラズモフスキー第3番」〜フーガ(弦楽合奏版) 3) JUPITER 4) ハナミズキ 5) 蒼き海の道 ●演奏 東儀秀樹(篳篥),阿部篤志(ピアノ) 原田幸一郎指揮いしかわミュージック・アカデミー弦楽合奏団 前半は,いしかわミュージックアカデミー(IMA)の受講生による,「若手の名手」を揃えた弦楽アンサンブルによるヴィヴァルディの「春」「冬」の後,弦楽四重奏曲第9番「ラズモフスキー第3番」の「フーガ」の弦楽合奏版が演奏されました。個人的には,東儀秀樹さんと組み合わせずに,IMA単独の公演にして欲しかったと思います。 「四季」の「春」は小川響子さん,「冬」は周防亮介さんがソリストを務めるなど,室内楽的雰囲気を越えた,鮮やかさや逞しさを感じました。ラズモフスキーの方は,各メンバーが「パーツ」になり切ったようなデジタルな正確さがすごく,弦楽四重奏版よりも軽いかも,と思わせるような緊密感がありました。 ちなみに,今回出演したIMAのメンバーは次のとおりでした。数年後にみたら「びっくり」というメンバーになっている気がします。
後半は,東儀秀樹さんの篳篥(ひちりき)を中心とした公演でした。篳篥の音には,東儀さんが語っていたとおり,独特の曲線的なゆらぎがあり,ちょっとエキゾチックな甘さがあります。それと妙に押しが強い存在感もあります。シルクロードで見上げる木星といったアジアンなムードの「JUPITER」をはじめ,東儀さんの「世界」を楽しませてくれました。 ただし...音楽祭のテーマである,「ベートーヴェン」を意識した選曲になっていなかったのは,少々疑問でした。音楽祭全体の「求心力」に関わる問題とも言えそうです。 東儀さんのトークは,自称「高飛車」トークということで,楽しませてくれたのですが,毎回,同様のトークだと,本当に「高飛車」な方だと思われそうだな,と少々危惧しました。 東儀秀樹さんのトークの中で「「ひちりき」を漢字で書けますか?」というのがありました。確かに[篳篥」は書けないですね。ちなみに「たんす」と読み間違える「知ったかぶり」の人もいるそうです。こちらは「箪笥」ですね。どちらもパソコンだから出せる文字ですね。 いしかわミュージック・アカデミーのブースも今回は出ていました。 音楽堂前は,例年通りツツジがきれいに咲いていました。交流ホールは,さすがに「赤の八角形」のステージではありませんでしたが,いつも賑わっていたようです。残念ながら,今回は交流ホールには全く行けませんでした。 【C13】14:45〜 石川県立音楽堂コンサートホール ベートーヴェン/交響曲第3番「英雄」 ●演奏 ユルゲン・ブルンス指揮ベルリン・カンマーシンフォニー ベルリン・カンマーシンフォニーは,今回の音楽祭で大活躍するゲストオーケストラ。しかも,演奏されるのが,ベートーヴェンの曲の中では欠かすことのできない「英雄」ということで,聞きに行くことにしました。 ドイツのオーケストラということで,もっと重い演奏を予想していたのですが,速目のテンポで全体の印象もふわふわと軽快。もともと伝統的な演奏とは違った方向から演奏することを目的に活動している団体なのかもしれません。ただし,深刻になり過ぎないけれども,どこか落ち着きのある演奏でした。それと,常にどこかダンサブルでした。3楽章のホルン重奏の部分ではテンポを落とし,ドイツの森で狩をしているムードたっぷりでした。 続いて,金沢市アートホールへ。 【A13】16:00〜 金沢市アートホール 1) ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」 2) 服部隆之/NHK大河ドラマ「真田丸」テーマ ●演奏 三浦文彰(ヴァイオリン),水野彰子(ピアノ) 三浦さんの演奏は大変伸びやかで,しっかり,くっきりと楽器を鳴らしていました。クロイツェルはもともとスケールの大きな曲ですが,演奏全体の息が長く,とてもスケールが大きく感じられました。音色も素晴らしく,変奏曲形式の第2楽章など美音が次々と滴り落ちるようでした。 そして...安心してください。ちゃんとアンコールでは「真田丸」のテーマが演奏されました。序奏部の力強い音型は,もはやトレードマークのようですね。大河ドラマのオープニングの気分が鮮やかに蘇り...有働アナウンサーの声まで聞こえてきそうでした。 交流ホールでは,「風と緑のカルテット」が演奏中 【C14】17:15〜 石川県立音楽堂コンサートホール ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番「皇帝」 ●演奏 バリー・ダグラス(ピアノ) 広上淳一指揮オーケストラ・アンサンブル金沢 この公演は,今回の音楽祭の目玉プログラムの一つでしょう。大変良い座席で聞いたこともあり,「皇帝」らしい「皇帝」を体全体で堪能できました。力強さと同時に男の哀愁とロマン(やや意味不明の言葉ですが),を感じさせる渾身の「皇帝」を聞かせてくれました。 この演奏は,↑この辺りで聞きました。 バリーさんの音は,冒頭のカデンツァから大変強靭でした。その音を受けた広上/OEKの音は喜びに満ちていました。演奏の精度的にはパーフェクトという感じではなく,合わせ辛そうな部分もありましたが,第2楽章などでは,しっかりと共感しあった深さを感じさせてくれました。 バリーさんを間近で見ていると,強打の時は,顔が赤くなっていました。その一方,高音などでは,慈しむような優しさが感じられました。堂々とした枠組みの中に色々な情感が盛り込まれた「皇帝」だと思いました。 バリー・ダグラスさんは1986年のチャイコフスキー・コンクールで優勝されていますが,その時の審査員が中村紘子さんで著書『チャイコフスキー・コンクール』の中でその時の様子を書いています。恩田陸さんのベストセラー小説『蜜蜂と遠雷』の副読本のような感じで読んでみても面白いと思います。 音楽堂前にはエーデルワイスカペレの皆さん 【H14】18:30〜 石川県立音楽堂邦楽ホール ピアノ・ソナタ全曲演奏第2夜 1)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第3番ハ長調 Op.2-3 2)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第7番ニ長調 Op.10-3 3)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第8番ハ短調 Op.13「悲愴」 4)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第10番ト長調 Op.14-2 5)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第11番変ロ長調 Op.22 6)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調 Op.27-2「月光」 7)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第17番ニ短調 Op.31-2「テンペスト」 8)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第24番嬰ヘ長調 Op.78「テレーゼ」 9)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第25番ト長調 Op.79 ●演奏 菊池洋子*1,木米真理恵*2,米谷昌美*3,近藤嘉宏*4,渡邉康雄*5,横山幸雄*6,石本えり子*7,山田ゆかり*8,竹田理琴乃*9(ピアノ) ナビゲーター:潮博恵 ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲演奏第2夜は,菊池洋子さんによる第3番でスタート。初期の作品でしたが,こんなに立派な作品だとは思いませんでした。さすが菊池さんという演奏でした。続いて,木米真理恵さんによる7番は軽快でキレの良い演奏。 米谷昌美さんによる「悲愴」を聞きながら,「各奏者はどうして,この表現に至ったのだろうか?みんな違う。きっと各奏者が生きて来た人生が演奏に反映しているに違いない」などと考えてしまいました。味のある演奏でした。 前半最後は近藤嘉宏さんによる10番。ガラス細工のように精緻でシンプルな美しさに溢れた音楽でした。後半最初は渡邉康雄さんによる第11番。こちらはゴツゴツとした大柄な音楽でした。 本日も白眉は,横山幸雄さんによる「月光」。イメージどおりの滑らかで柔らかいタッチの第1楽章から段々と第3楽章に向けてパワーアップ。それでも音の透明感はそのままというのが素晴らしいと思いました。 石本えり子さんの「テンペスト」は,率直な情熱と意味深さが交錯する魅力的な演奏。 演奏会を聞き進むうちに,聴衆の間にゆるい一体感が生まれているような気もします。その一方,この辺まで来ると,力尽きている人もチラホラ見かけました。 疲労感に襲われながら,山田ゆかりさんによる「テレーゼ」を聞いて,「これは癒しの音楽だ。いい曲だぁ」とホッとしました。最後は,この日最年少の竹田理琴乃さんによる「かっこう」。シャキッとさせてくれる演奏で第2夜は終了しました。 |