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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2017 レビュー・トップページ
5月4日(木・祝) 本公演2日目 音楽祭本公演2日目は,朝9:45から夜9時過ぎまで。約12時間を石川県立音楽堂〜JR金沢駅周辺で過ごしました。まさに非日常的な「熱狂の一日」になりました。 【C21】9:45〜 石川県立音楽堂コンサートホール ベートーヴェン/交響曲第2番 シューベルト/劇音楽「ロザムンデ」〜間奏曲 ●演奏 ユベール・スダーン指揮オーケストラ・アンサンブル金沢 この日の「朝一」は「ベト2」ということで,「朝2」でスタート。 スダーンさん指揮OEKの演奏は,インテンポでキビキビとした古典的な気分の中,常に躍動感が潜んでいる理想的な演奏でした。バロック・ティンパニを強打させるなど,古楽奏法を持ちながら,大げさになり過ぎることのないバランスの良い演奏を聞かせてくれました。 今回の音楽祭では,交響曲第2〜3番,5〜6番,8〜9番の6曲を聞いたのですが,スダーン/OEKによる,2番と6番が(やや贔屓目かもしれませんが)いちばんよいなぁと感じました。音楽祭の核となる演奏だったと思いました。 ロザムンデ間奏曲では,通常,第1ヴァイオリンが合奏で演奏する主旋律をコンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさんがソロで演奏しました。そのことによって,メロディの美しさがさらに際立ち,ちょっとした小協奏曲のように響いていました。目からウロコのような美しい演奏でした。 このことについて,終演後,ホール内のOEKブースにいらしゃったOEKのヴァイオリン奏者の若松さんにお尋ねしたところ「スダーンさんのアイデア」とのことでした。 この曲を選んだ理由も,スダーンさんが演奏前に説明されていたのですが,はっきり聞き取れませんでした。 ユベール・スダーンさんには,インタビュー(?)のついでに2回サインをいただきました。モーツァルトの管楽器のための協奏交響曲などのCDです。仮に来年のテーマが「モーツァルト」だとしても問題なしですね 音楽堂入口横の↓この場所がサイン会の定位置。スダーンさんには,モーツァルテウム管弦楽団とのモーツァルトのCDにサインをいただきました。 【H21】11:00〜 石川県立音連楽堂邦楽ホール 1) ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」 2) ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第4番ハ短調 ●演奏 渡邊荀之助,佐野登,渡邊茂人,川瀬隆士(能) アビゲイル・ヤング,ヴォーン・ヒューズ(ヴァイオリン*2),ダニイル・グリシン(ヴィオラ*2),ルドヴィート・カンタ(チェロ*2),石本えり子(ピアノ*1) 金沢名物の能とクラシック音楽とのコラボ企画。今年は「テンペスト」と能舞+OEKメンバーによる弦楽四重奏+能舞4人とのコラボでした。「カルテットにも色々な仕事が来るねぇ」とドラマ「カルテット」などを思い出しながら観ていました。 「テンペスト」の方は,第1楽章について,曲の緩急に合わせて,面をつけていない男性1人が能を舞うというものでした。2楽章以降は普通に演奏されました。 弦楽四重奏曲第4番の方は,第4楽章だけ能舞が付きました。こちらは奏者も能舞も4人ということで,能による抽象的な創作ダンス風でした。演奏の方も能舞の方も4人が連鎖するように演奏したり,舞ったりしており,どこか幾何学的な図形を目で追うような面白さを感じました。 またこの弦楽四重奏自体,大変良い曲でした。短調の作品ということで,モーツァルトの短調五重奏曲を思わせるようなドラマをはらんだ演奏となっていました。 交流ホール 【H22】13:30〜 石川県立音楽堂邦楽ホール 1) ベートーヴェン/ロンドハ長調 2) ベートーヴェン/ピアノ協奏曲3番ハ短調 ●演奏 三浦友理枝(ピアノ) ユベール・スダーン指揮ベルリン・カンマーシンフォニー*2 ここ数年来,金沢ではアルド・チッコリーニ,イェルク・デームスといった超高齢ピアニストとOEKとの共演が定番(?)となっていたピアノ協奏曲第3番ですが,今回の独奏者は三浦友理恵さんということで,若い奏者による,端正,潔癖,爽快な耳が洗われるような演奏を楽しむことができました。特に第2楽章の耽美的な雰囲気が素晴らしいと思いました。楽章最後の,独奏ピアノがシンプルに音階を上がっていく部分が好きなのですが,とても美しいタッチでした, 三浦さんの演奏の姿勢は,すっと背が伸びていて美しく,演奏中時々上の方を見上げながら演奏していました。思わず,私も一緒に天井の方を見上げてみたのですが...特に何もありませんでした。 また,この曲の前に三浦さんの独奏で,ロンドが演奏されました。優しく芯のある音で,静かに時が流れていくような素敵な曲であり演奏でした。 邦楽ホールでのオーケストラ公演ですが,全日の第4番に比べると,しっかりとなじんでいるように感じました。もしかしたら,OEKの時だけパワーがあり余っているのかもしれません。今回3つのオーケストラと3人の指揮者が登場し,順列組合せ的に色々な組み合わせが楽しめるのが面白いですね 終演後,三浦友理枝さんにはOEKと共演したラヴェルのCD(持参したCD)にいただきました。フランス音楽特集の時には,是非,再登場を期待したいと思います。 その後は,夜の「ピアノ・ソナタ全曲演奏」に備えて,有料公演の方はパスし,エリア公演を眺めながら一休みしました。 気分転換のため,もてなしドームの方へ この日のエリアイベントで強烈な印象を残していたのは,スキヤキ・スティール・オーケストラの強烈なリズムとサウンドでした。鼓門下は異様にカリブ海化していました。 その下では,金沢大学フィルが演奏中 JR金沢駅コンコースでは,金沢クラリネット・アンサンブルが演奏中 5月4日 エリアイベントの王者(?)といえば,神出鬼没の筒井裕朗さんのSaxカルテットですね。今回も大活躍されていますした。 ![]() やすらぎ広場では,歌曲をよく演奏していたようです。 ![]() 1)ベートーヴェン/ピアノ協奏曲1番ハ長調 2)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」〜第2楽章 ●演奏 横山幸雄(ピアノ),広上淳一指揮高雄市交響楽団*2 独奏ピアニストとして,ソン・ヨルムさんの代役で,横山幸雄さんが登場し,広上淳一指揮高雄市響と共演しました。「どこが代役?パーフェクトだ!」といった感じの演奏でした。第1番ということで,モーツァルトの協奏曲を聞くような古典的な気分がありましたが,第1楽章の展開部やカデンツァなどでは,音がどんどん広がり,名技性も楽しませてくれました。 第2楽章はまろやかな音でオーケストラと一体となって,じっくりと聞かせてくれました。横山さんは,色々な音の引き出しを持った方だなぁと実感しました。 高雄市のオーケストラのメンバーはとても嬉しそうに演奏(広上さんの指揮の「面白さ」の影響もあると思います)。横山さんも嬉しそう,もちろんお客さんも大喜び。三方幸せな演奏だったと思います。 アンコールでは,ピアノ・ソナタ「悲愴」の第2楽章がゆったりと演奏されました。 横山幸雄さんにはサインをいただけなかったのですが,代わりにCDを紹介。ソナタ全集だけでなく,変奏曲,バガテルなど独奏曲も全部収録されているので以前に購入したもの。あの美しい音が蘇ってきます。 【C24】17:15〜 石川県立音楽堂コンサートホール ベートーヴェン/「レオノーレ」序曲第3番 ベートーヴェン/交響曲第5番「運命」 ●演奏 ユルゲン・ブルンス指揮ベルリン・カンマーシンフォニー 「ベートーヴェン」をテーマとした音楽祭てこの曲を抜かすわけにはいかない,ということで交響曲第5番をユルゲン・ブルンス指揮ベルリン・カンマーシンフォニーで聞いてきました。「英雄」同様,熱くなり過ぎてはいないのに,最後には,聞いた実感がしっかり残る演奏。ホルンの強奏が印象的でした。 ただし,このオーケストラですが...冒頭の有名な「運命のモチーフ」をはじめ,ところどころで「おやっ?」という感じの違和感を感じました。 レオノーレ3番では,通常舞台裏で演奏されるトランペットを,2階バルコニー席で演奏させていたのが印象的でした。ルール違反かもしれませんが,シアターピース的にドラマティックな効果が出ていました。OEKのトランペット奏者(藤井さん?)だったようです。 テンポがアップする最後の部分での,不協和音の強調なども面白いと思いました。 サインは公演パンフに集中させることに。使用前・使用後です。 上段がユルゲン・ブルンスさん,下段がノエ・乾さん(別の公演で頂いたもの)。中段がベルリンの奏者2名(Tp,Fg)。右はカンマーシンフォニー・ベルリンの案内パンフレット この日のエリアイベントといえば...いつ見ても音楽堂前で演奏していた感のあるエーデルワイス・カペレの皆さん。必ず盛り上がります。この日,帰宅後,ついつい缶ビールを飲んでしまったのですが,それもこの方たちの影響です。 【H24】18:30〜 石川県立音楽堂邦楽ホール ピアノ・ソナタ全曲演奏第3夜 1)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調 Op.2-1 2)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調 Op.7 3)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第19番ト短調 Op.49-1 4)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第20番ト長調 Op.49-2 5)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調 Op.57「熱情」 6)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30番ホ長調 Op.109 7)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第31番変イ長調 Op.110 8)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第32番ハ短調 Op.111 ●演奏 菊池洋子*1,木下由香*2,三浦友理枝*3-4,アンナ・フェドロヴァ*5-6,鶴見彩*7,竹田理琴乃*8(ピアノ) ナビゲーター:潮博恵 この日も菊池洋子さんスタートで第1番。ベートーヴェンは最初からベートーヴェンです。第4番は木下由香さんが演奏。「恋人」という仇名もある曲ですが,清潔感と憧れに満ちていて,この曲も良い曲だななぁ,と思いました。 続いて,この日2回目の登場の三浦友理枝さんで19番と20番。悲しみがスーッと流れて行くような19番,曇りのないソナチネのお手本のような20番。ベートーヴェンのピアノ曲は本当に多面的な魅力を持っています。 前半最後はアンナ・フェドロヴァさんの「熱情」。曲目,演奏とも感情の起伏が一気に拡大した印象でした。ただし,個人的には,フェドロヴァさんの演奏は,ややヒステリックに感じられました。それと第3楽章の最後の部分など,やや粗いかなと思いました。 この企画,女性奏者が大半ということもあり,実は奏者のドレスを楽しむ企画のような面もありました。この日の後半に演奏された30-32番になったとたんに,みなさん黒系のドレスに変わりました。何となく紅白歌合戦の最後の方で着物の演歌歌手が出てくる...のと似ているかもと思ったりしました。 30番のフェドロヴァさん,31番の鶴見彩さんは,ともにやや苦戦している雰囲気がありましたが,両曲とも,苦悩を乗り越えた後に響く「心にしみる歌」が感動的でした。特に鶴見さんの31番の「嘆きの歌」の後が感動的でした。 フェドロヴァさんの方は最終楽章で,ちょっと弾き直している部分がありました。前日のショパンの幻想即興曲の時同様,やや詰めが甘いところがある印象を持ちました。 この日の演奏でした,何といってもトリに登場した,竹田理琴乃さんによる32番が感動的でした。この演奏を聞いただけでも,ソナタ全曲演奏企画をやった甲斐があったと思えるほどでした。恩田陸さんのように賞賛を書き尽くしたい気分です。「ベートーヴェンに愛されている!」というような演奏だったと思います。 32番を弾いた竹田理琴乃さんはまだ20代前半のはずですが,まず,このキャスティング(?)がピタリとハマりました。第1楽章での緊迫感はあるけど,ビシッと正確に整理されている見事でした。そして第2楽章の変奏曲は,孤高の演奏がいつの間にか宇宙へとつながっているような凄い世界でした。ブギウギのような部分(いつもそう思います)の躍動感の後,ショパンとも違うキラキラと輝く高音の星の世界へと登っていきました。 この日,最初に演奏された第1番と比較して,「ベートーヴェンもここまで来たか!」と感じさせたのはこの企画の狙いどおりでした。そして,多くの金沢の音楽ファンは,「理琴乃さんもここまで来たか」としみじみと感じたことでしょう。 |