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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2021 レビュー・トップページ
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2021 【4月29日の公演】 

Review by 管理人hs  

いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2021のオープニングコンサートが石川県立音楽堂コンサートホールで行われたので聞いてきました。毎年,4月29日にこのコンサートが行われ,音楽祭が本格的にスタートというのがこの10年ほどの金沢の春の大型連休の恒例でしたが,昨年度はコロナ禍の影響で中止。2年ぶりに行われたことになります。
  

今年についてもコロナ禍は全く納まっておらず,金沢でも感染者数的には昨年を上回るような状況ではあるのですが,「コロナ感染の要所」が分かってきていることも確かです。今年については,感染拡大防止策のガイドラインに従った上で,「お祭り騒ぎにならないようにお祭りを開幕する」ということになりました。

オープニングコンサート
2021年4月29日(木祝) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) 宮城道雄(池辺晋一郎編曲)/春の海
2) 喜多郎/NHK「シルクロード」テーマ音楽
3) ケテルビー/ペルシャの市場にて
4) ナポリ民謡/オー・ソレ・ミオ
5) ナポリ民謡/サンタ・ルチア
6) マルキーナ/エスパニア・カーニ
7) ビゼー/歌劇「カルメン」前奏曲
8) カザルス/鳥の歌
9) ビゼー/「アルルの女」第2組曲〜メヌエット,ファランドール
10) (アンコール)リード/行進曲「ゴールデン・イーグル」

●演奏
田中祐子指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)
李彩霞(二胡*2),笛田博昭(テノール*4-5),ルドヴィート・カンタ(チェロ*8)
石川県箏曲連盟(箏*1),北陸フラメンコ協会(フラメンコ*6-7)
木村綾子(司会;ソプラノ*5),原田勇雅(司会;バリトン*5)

音楽祭の今年のテーマは「南欧の風:イタリア・スペイン・フランス」ということで,オープニングコンサートもそういう曲が並ぶのかな...と思っていたら,趣向が凝らされていました。日本からシルクロード,ペルシア経由で南欧に行くという「旅」がイメージされていました。司会の木村綾子さん,原田勇雄さんはお二人とも歌手ということで,とてもクリアで美しい声。最初の部分,ヴィクター・ヤング作曲の映画「80日間世界一周」のテーマ音楽が演奏される中(いかにもという音楽),とてもゴージャスなアテンダントのアナウンスを聞いている気分になりました。

まず,スタート地点・日本の曲として,池辺晋一郎編曲による「春の海」(石川県箏曲連盟の箏合奏とOEKの共演)が晴れやかな雰囲気で演奏されました。この編曲版は何回か聞いたことがありますが,定番と言って良いほど邦楽器とオーケストラがマッチしていると思います。


続いてシルクロードをイメージさせる曲としてNHK「シルクロード」のテーマ(李彩霞さんの二胡とOEKの共演),そして,ペルシャの曲として,ケテルビーの「ペルシャの市場にて」が演奏されました。考えてみると,ものすごく「ベタな曲」ばかりでしたが,この「分かりやすさ」が,懐かしいと同時に(小学校時代の音楽鑑賞や1980年代のNHKの番組の雰囲気)新鮮でした。誰もが同じイメージを持てる曲をみんなで楽しむというのは,「コロナ禍1年」の中,とても貴重なことではと改めて思いました。

この中では二胡の音がすごいなぁと思いました。どこから音が出ているのだろうという不思議な気分になります。弦楽器なので当然ではあるのですが,息が長く歌われたメロディを聞きながら,「南欧に行かなくても,シルクロードでゆっくりしていっても良いかも」と一瞬思いました。

「ペルシャの市場にて」の方は,生で演奏されるのは意外に珍しい曲です。全体に快適なテンポで,気持ちよく演奏されました。途中出てくる,チェロ独奏で演奏された「お姫様」のテーマが美しかったですね。

そして,いよいよイタリアに到着。この部分では,プログラムには書かれていませんでしたが,モリコーネ作曲,映画「ニューシネマ・パラダイス」の中の「愛のテーマ」が弦楽四重奏で演奏されました。飛行機で空港に着陸する時の音楽というイメージだったのでしょうか。

イタリアの曲としては,何と言ってもナポリ民謡の代表曲「オー・ソレ・ミオ」での笛田博昭さんの,力と熱量が自然に備わったような声が素晴らしかったですね。この日の金沢は朝からずっと雨でしたが,太陽が出てきたような感じでした。イタリア直送の食材をそのまんま丸ごと食べているような(何の料理か?と尋ねられると困るのですが),ゴージャスさを感じました。ちなみにオーケストラの演奏は,冒頭のティンパニ+弦楽器の響きから例の「3大テノール」版の「オー・ソレ・ミオ」の雰囲気そのままでした。この日の指揮者は,田中祐子さんでしたが,熱さを感じさせつつ,笛田さんの歌にぴたりと付けていました。

その後,原田さん,木村さんの司会者2人を加えた3人の共演で「サンタ・ルチア」が大らかに歌われました。テノールとバリトンがハモると,「どこかヴェルディ」といった感じになるなぁと思いながら聞いていました。

続いてスペインに移り,北陸フラメンコ協会のフラメンコのステージとなりました。音楽は「エスパニア・カーニー」。聞けばすぐ,闘牛の気分になるあの曲です。赤いドレスを着た8名のダンサーが,オーケストラの前とオルガンのステージに並び,大いに会場の気分を上げてくれました。このダンスを見ながら,そういえば,北陸フラメンコ協会の皆さんが,自粛期間中,この曲を踊る映像(お寺の本堂とかで踊っていましたね)をYouTubeで見たなぁということを思い出しました。時が経つのは速いものです。

「カルメン」前奏曲では,扇子とショールを持ったダンサーたちに交じって,音楽祭のキャラクター,ガルガンチュアも登場。さすがにフラメンコの衣装は来ていませんでしたが,音楽祭気分をさらに盛り上げてくれました。

その後,おなじみルドヴィート・カンタさんが登場し,カザルス編曲によるカタロニア民卿「鳥の歌」を,OEKの弦楽メンバーと一緒に演奏しました。華やかな曲が続いた後にちょっと気分を落ち着けるような感じで,しみじみと深く沈潜するようなチェロの歌を聞かせてくれました。

「終点」はフランスで,ビゼーの「アルルの女」組曲第2番から,メヌエットとファランドールが演奏されました。メヌエットでは,松木さんの聞き応えたっぷりのフルートを存分に楽しんだ後,だんだんとオーケストラに明るい音色が広がっていく感じが素晴らしいと思いました。一つ残念だったのは...松木さんに拍手できなかったことです。ファランドールに入る前に,拍手をすれば良かったかなと後悔しています。

ファランドールでは,南フランスの気分を感じさせる,カラッとした音のする「あの太鼓」(渡邉さん担当)のリズムを中心にストレートに盛り上がり,爽快に締めてくれました。

アンコールは何かと思ったら,アルフレッド・リードが石川県のために書いた行進曲「ゴールデン・イーグル」。途中,「石川県民の歌」のメロディが出てくるのですが...この曲の知名度が高くないのが少々残念な点でしょうか。最後は石川県に戻って,コンサートは終了しました。

今年の音楽祭の雰囲気を分かりやすく集約したような曲ばかりで,「色々聞いてみたいなぁ」と思わせるのに十分のオープニングとなりました。今年の場合,上述のとおり,「お祭り気分にならないように祭りを楽しむ」といったところがあるのですが,せめて,心の中でも南欧気分に浸りたいと思います。

ちなみに,今年は,オープニングコンサートの前の「セレモニー」の中で,石川県知事と金沢市長が「ご挨拶」をする定例行事はありませんでした。「アフターコロナ」も,同様で良いのではと思いました。

 
交流ホールでは,「ピアノ・コンサート in 金沢Vol.2」の準備中

 

(2021/05/16)