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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2021 レビュー・トップページ
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2021【本公演2日目 5月4日】

Review by 管理人hs  

ガル祭 2021本公演2日目は,秋山和慶さん指揮大フィルによる「ローマ三部作」シリーズの「祭」「噴水」の2公演のみに参加しました。これで,個人的に今年の連休の「ミッション・コンプリート」。2曲とも初めて聴く曲でしたが,心行くまで大編成の魅力を楽しむことができました。特に,個人的に,予想を越える大騒ぎだった「祭り」を生で聞けたのは,今回いちばんの収穫でした。
 
C5042 ローマの祭り
2021年5月4日(火祝) 13:10〜 石川県立音楽堂コンサートホール

ファリャ/バレエ「三角帽子」第1組曲
ファリャ/バレエ「三角帽子」第2組曲
レスピーギ/交響詩「ローマの祭り」
●演奏
秋山和慶指揮大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:崔文洙)
司会:青島広志

その「ローマの祭り」に先だって,ファリャの「三角帽子」第1組曲と第2組曲が演奏されました。OEKの定期公演では第1組曲を何回か聞いたことはあるのですが,第2組曲を実演で聞くのは初めてだったかもしれません。

秋山さんの指揮ぶりは常に慌てず騒がず。冒頭のティンパニの乱打の部分もあっさり。しかし,だんだんと味が濃くなって来て,ピアノが加わった硬質のサウンドの上に,弦楽器を中心に鮮やかなに音楽が流れ始めました。スペイン風の舞曲の数々も実に力強かったですね。第2組曲は編成がさらに大きいせいか,音楽の起伏がさらに大きくなっていました。「粉屋の踊り」は,ギターで演奏するのを聞いたことはありますが,重量感のあるオーケストラで聞いても最高です。終曲は華やかな解放感と強烈さとが両立したパンチ力のある響きで締めてくれました。

そして後半は,「ローマの祭り」。第1曲の冒頭から別働の金管が加わる派手な始まりなのですが,暴力的な雰囲気はありませんでした。その後,次第に音量を増し,狂暴さを増し,凄みを増し...という盛り上がげ方が見事でした。暴君ネロの時代を描いた音楽ですが,特にパイプオルガンの音が加わって,恐怖感が1段アップする感じが凄いと思いました。

第2曲は静かな音楽。充実した音楽がじっくりと流れていく感じ。ここでも段々と音楽の厚みが増していきます。最後の鐘の音の部分も生ならではの精彩がありました。CDだと良く分からなかったのですが,鐘に加えて,ピアノや銅鑼の音も一緒に合わさっているのがよく分かりました。

第3曲は秋祭りのような音楽。ホルンやトランペットによる素朴な感じの音楽の後,クラリネットが出てくる辺りには,レスピーギの師匠のリムスキー=コルサコフを思わせる気分があるなぁと思いました。そして,静かな雰囲気になり,空気を変えるようにマンドリンが登場。涼しい夜の風が吹いてくるような感じがとても効果的でした。ヴァイオリン独奏の蠱惑的な雰囲気も良いなぁと思いました。

第4曲は小クラリネットの甲高い音でスタート。その後は打楽器が大活躍。数を数えてみると10名ぐらいいました。色々な音が聞こえてくるのですが,整った騒々しさといった感じでした。そして,トロンボーンがユーモラスに歌う酔っ払いの歌になったり,メリーゴーラウンド風のワルツになったり,浮かれたようなサルタレロになったり...これでもかこれでもかと盛り上がりが続きました。人がいっぱい集まって,それぞれに盛り上がっている感じがあり,大昔の映画「天井桟敷の人々」のラストに通じるような,ラテン的な気分があるなと思いました。最後の方は,ギアを入れ替えるようにテンポアップして,音楽の威力が増していましたが,音楽はバラバラになることなく,常にクール。この辺が実に格好良かったですね。演奏後の秋山さんは何ごともなかったように平静。すべては秋山さんの掌の上での出来事,といった風情。さすがだなぁと思いました。





この日も次の公演まで,2時間ほど時間があったので石川県立美術館まで往復。常設展を観てきました。美術館周辺の緑が美しかったですね(電動アシスト自転車ならば坂道も支障はありません)。



C5043 ローマの噴水
2021年5月4日(火祝) 15:50〜 石川県立音楽堂コンサートホール
ベルリオーズ/序曲「ローマの謝肉祭」
レスピーギ/交響詩「ローマの噴水」
ラヴェル/ボレロ
●演奏
秋山和慶指揮大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:崔文洙)

この公演,もともとは「ローマの噴水」が最後になっていましたが,ラヴェルの「ボレロ」に変更になりました。やはりこの方が落ち着きます。「ボレロ」の後に演奏できる曲は...やはりない気がします。

最初に演奏されたベルリオーズの「ローマの謝肉祭」は,キリッと引き締まった雰囲気でスタート。続くイングリッシュホルンの独奏は,オペラのアリアのよう。しっかりと聞かせてくれました。弦楽器の音にも滴るような美しさがありました。最後の方はテンポアップしましたが,他の曲同様,ここでもしっかりと地に足のついた音楽になっていました。それにしても若々しい音楽でした。みんなで秋山さんを盛り立てているなぁと思わせる演奏でした。

ちなみに,この曲では,タンバリン2人に注目してしまいます。結構珍しい編成?2人が同じ動作でバシッと叩く感じは観ているだけで,どこか嬉しくなります。

続いて「ローマの噴水」です。三部作の中ではいちばん印象派風で,朝昼晩それぞれの「水の表情」の変化を描いている点で,ドビュッシーの「海」に通じる部分もありそうです。第1曲の「夜明け」の部分から,キラキラとした水の雰囲気が美しかったですね。ほっと一息つける静かな時間という感じでした。第2曲は,グロッケンやトライアングルなどが加わり,目が覚めたような明るさに。その後,少しずつ壮大に盛り上がっていき,安定した音楽に。終曲では,チェレスタやハープが加わって夜の気分に。こうやって聞くと,とてもオーソドックスな雰囲気の曲だなと思いました。秋山さん指揮大阪フィルの音は,どこを取っても美しく精妙でした

今回,三部作を実演を聴いて分かったのはすべてオルガンが入るということです。「噴水」にも入っているのは,今回初めて分かりました。というわけで,この3曲,3年に一度ぐらい石川県立音楽堂で取り上げてもらい,「ローマ三部作トリエンナーレ」という感じ聞いてみたいものだと思いました。

ガル祭2021で,大編成作品を演奏し続けてきた,秋山さんと大阪フィルですが,その最後はラヴェルの「ボレロ」でした。ステージ中央に配置した小太鼓による,乾いた精密な音で基本リズムがスタート。中庸のテンポでカッチリと進む感じは,まさに職人の作る音楽という感じ。秋山さんには,どんな曲でも常に水準の高い仕上げを残す「職人」といった雰囲気がありますが,今回の「ボレロ」もすべての点でバランスの取れた名匠による工芸品といった演奏でした。弦楽器など歌うべきところはしっかりと歌い,変わったことは全然していないのに,最後に近づくにつれて自然に風格と威厳が漂ってきました。最後の方では,トランペットの鋭く輝きのある音が特に印象的でした(私の座っていた座席のせいもあったかもしれません)。



というわけで,秋山さんと大阪フィルは,「ローマ三部作」3公演で,それぞれに強いインパクトを残してくれました。厳しい状況の中,金沢に来てくれたことに感謝をしたいと思います。


(2021/05/16)