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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2021 レビュー・トップページ
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2021 【本公演3日目 5月5日】

Review by 管理人hs  

本公演3日目,最終日は,午前中の公演とクロージングコンサートのみに参加しました。この日まで,天候は良かったのですが,この日は雨になってしまいました。
  

C5051 サン=サーンス:チェロ協奏曲
2021年5月5日(水祝) 10:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ドビュッシー/小組曲
2) フォーレ/劇付随音楽「ペレアスとメリザンド」〜シシリエンヌ
3) サン=サーンス/チェロ協奏曲第1番イ短調
4) (アンコール)サン=サーンス/白鳥(チェロ独奏版)

●演奏
垣内悠希指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)*1-3
宮田大(チェロ)*3-4

午前中はオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)によるフランス音楽集を聞いてきました。今回,秋山さん指揮大阪フィルの3公演にターゲットを絞っていたので,今回の音楽祭の中でOEKを聞くのはこれが初めてでした。OEKファンとしては,聞き逃すわけにはいきません。
 
指揮の垣内悠希さんは,OEKから柔らかで膨らみのある音楽を引き出しており,しみじみ良いなぁと思いました。昨日まで,大編成の曲ばかりを聞いてきたのですが,OEKの演奏を聞くと,細かなニュアンスの変化によるダイナミズムも面白いと感じます。終曲での,沸き立つ感じはあるけれども,全体的には絶妙の柔らかさに包まれた音楽を聞いて,フランス音楽にぴったりだと思いました。

ドビュッシーの小組曲,2曲目のフォーレのシシリエンヌともに,松木さんの健康的でしなやかなフルートの魅力も堪能できました。両方とも,午前中の気分にぴったりの演奏でした。

後半は,宮田大さんとの共演でサン=サーンスのチェロ協奏曲第1番が演奏されました。宮田さんの音は,とてもしっかりとしているけれどもけれ,常に曲の気分に相応しいノーブルな雰囲気がありました。特に第2主題でのテンポを落としての,ニュアンス豊かな歌い方が絶品だと思いました。雄弁だけど饒舌過ぎない歌い方が素晴らしく,1〜2楽章にかけての大きな間をとった深い雰囲気をはじめ,宮田さんの世界に強く引き込まれました。OEKの演奏も共感に溢れたものでした。3楽章の最後は,超高音が出てくる,スピード感溢れる音楽。それでも余裕があり,音楽の深みを感じさせてくれました。実は,宮田さんの演奏で協奏曲を聞くのは今回が初めてでしたが,素晴しいアーティストだと改めて思いました。

アンコールでは,サン=サーンス+チェロということで..予想どおり「白鳥」が演奏されました。ただし,通常と違い無伴奏の白鳥でした。仲間からディスタンスを取って1羽で泳いでいるような雰囲気があり,時節柄,ぐっと胸に迫ってくるものがありました。この演奏を聴いて励まされた人もいたと思います。逆に通常版でのハープやピアノの伴奏の役割の大きさも実感できました。



  

 

この日は,最終公演まで6時間以上時間があったので,一旦自宅に戻り,昼食と夕食を食べた後,18:00過ぎに再度,クロージング・コンサートを聞くために音楽堂に戻ってきました。

C5054 クロージング・コンサート オペラ「カルメン」ハイライト
2021年5月5日(水祝) 18:40〜 石川県立音楽堂コンサートホール

ビゼー/歌劇「カルメン」ハイライト

●演奏
鈴木織衛指揮兵庫芸術文化センター管弦楽団
カルメン:鳥木弥生(メゾ・ソプラノ),ドン・ホセ:笛田博昭(テノール),ミカエラ:木村綾子(ソプラノ),エスカミリオ:三戸大久(バス・バリトン),フラスキータ:東園(ソプラノ),メルセデス:前澤歌穂(メゾ・ソプラノ)
東京オペラ・プロデュース合唱団
コーディネーター:飯坂純


ガル祭2021のクロージングコンサートは,鳥木弥生さん,笛田博昭さん,三戸大久さんの3者を中心に,声と声とが熱く交錯する「カルメン」ハイライト(約80分)でした。オペラのハイライトで「締め」というのは,今回が初だと思います。

  

今回のオーケストラは兵庫芸術文化センター管弦楽団,指揮はOEKの  指揮者の鈴木織衛さんでした。私自身,鈴木さんがOEKや石川県ジュニアオーケストラ以外を指揮するのを聞くのは初めてのことでしたが,お馴染みの前奏曲から,いつもどおりノリ良く,スムーズな音楽を聞かせてくれました。全曲を通じて,清々しさを感じさせてくれました。

今回はハイライト公演ということで,所々で,コーディネーターの飯坂純さんによるストーリー展開を説明する語りが入りました。その間をお馴染みの音楽でつなぐという感じでした。演奏会形式上演という感じで,大道具,小道具は使わないけれども,歌手たちは,各キャラクターの衣装を着ており,演技もかなり行っていました(手をつないだり,抱き合ったりという部分はありませんでしたが)。



まず,児童合唱(プログラムにはクレジットされていなかったのですが児童合唱も登場しました)による「衛兵の交替ごっこ」の合唱の後,大人の合唱になり,鳥木さん演じるカルメンによる「ハバネラ」となりました。スラリとした白いドレスを着た鳥木さんには華があり,ほの暗い声からは,悪女モードが溢れていました。

その後,木村綾子さん演じるミカエラと,笛田さん演じるホセのシーン。カルメンの「セギディーリア」でホセを誘惑するシーンと続きました。笛田さんに演じる直球勝負のホセと熟練の鳥木さんとの絡みが見ものでした。

幕と幕の間の3つの間奏曲は,全部演奏されていました。第2幕への間奏曲の後は,「ジプシーの踊り」。じっくりとしたテンポから,後半一気に燃え上がるドラマティックなテンポ設定でした。

その後,三戸さん演じる,闘牛士が登場。声は艶やか,姿も恰幅が良く,魅力もたっぷりのエスカミーリョでした。そして,ホセによる「花の歌」へ。待ってましたと声を掛けたくなるような美しく強い声で,カルメンへの情熱がビンビンと伝わってきました(個人的には,もーっとたっぷり歌って欲しい気もしました)。笛田さんと三戸さんによる,がっぷり四つの戦い開始といった感じでした。

第3幕への間奏曲の後は,東園さんと前澤歌穂さんによる「カルタの歌」。この曲は,個人的にとても好きな曲です(カルメンの音楽はどこも良いですが)。2人ともとても生きの良い歌を聞かせてくれました。そして,ミカエラによる有名なアリア。木村綾子さんが,守ってあげたくなるような切ない美しさを持った歌を聞かせてくれました。

第4幕,合唱,児童合唱が盛り上げる中,闘牛場のシーンがスタート。この部分ですが,本来はエスカミーリョの前に何人か闘牛士を紹介し,そのうちにどんどんテンションが上がっている形なので...全部聞いてみたかったですね。今回は「いきなりクライマックス」という感じになっていました。続いて,エスカミーリョとカルメン,カルメンとホセの絡みの場が続きます。

贅沢を言えば,やはりこのオペラについては,人物間の演劇的な絡み合いをもっと観たかったところです。特に4幕は全部観たかったですね。それでも華のある歌手たちの共演は聴きごたえ十分,音楽堂のステージはコロナ禍とは別の世界に変わっていました。特に最後の部分では,笛田さんの圧倒的な声がドラマを大きく盛り上げていました。

終演後は,クロージングの名残惜しさも加え,カーテンコールが続きました。今回のキャストは「最強メンバー」という感じでしたので,機会があれば,演奏会形式でも良いので全曲上演を期待したいところです。

例年,クロージングコンサートの終演後は名残惜しい雰囲気に包まれるのですが,この日もすぐに帰宅。石川県のコロナの状況は楽観できる状況にはなく,連休明け,さらに感染者数が増えてしまいました。主催者の皆様は大きな重圧の中での運営だったと思います。それでもやり遂げたことに感謝をしたいと思います。来年こそは,「2年前までの雰囲気」に戻って欲しいと思います。



(2021/05/16)