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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2022 レビュー・トップページ
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2022 【4月29日の公演】 

Review by 管理人hs  

4月29日の午後は,石川県立音楽堂コンサートホールで行われた,いしかわ・金沢風と緑の楽都音楽祭2022のオープニングコンサートを聞いてきました。演奏は田中祐子さん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢祝祭管弦楽団,ということでいつもより増強された編成による演奏でした。



【オープニングコンサート】
2022年4月29日(金祝) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ウェーバー/舞踏への勧誘, op.65
2) メンデルスゾーン(編曲者不明)/歌の翼に, op.34-2
3) シューベルト(ブリテン編曲)/ます, D.550
4) クライスラー(編曲者不明)/美しいロスマリン
5) シューマン/トロイメライ
6) ショパン(ダグラス編曲)/バレエ音楽「レ・シルフィード」〜ヴァリアシオン(前奏曲イ長調)
7) シューベルト(鈴木行一編曲)/菩提樹
8) シューベルト(リスト編曲)/魔王, D 328
9) ブラームス/大学祝典序曲, op.80(抜粋)
10) ワーグナー/楽劇「ローエングリン」〜婚礼の合唱
11) メンデルスゾーン/劇音楽「夏の夜の夢」〜結婚行進曲(抜粋)
12) リスト/ハンガリー狂詩曲第2番 嬰ハ短調 S. 244/2
13) (アンコール)レハール/喜歌劇「メリー・ウィドゥ」〜メリー・ウィドウ・ワルツ(唇は語らずとも)

●演奏
田中祐子(*1-3,6-13)指揮オーケストラ・アンサンブル金沢祝祭管弦楽団(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)*1-4,6-13
金子三勇士(ピアノ*5),クリストフ・コンツ(ヴァイオリン*4),小林沙羅(ソプラノ:2-3,13),コンスタンティン・インゲンパス(バリトン*7-8,13),北野友里夏(バレエ:6)
司会:木村綾子,高柳圭


内容は,今年のテーマ「ロマンのしらべ」に合わせて,ドイツ〜オーストリア系のロマン派の作曲家の作品を10曲以上並べたるガラコンサートでした。公演時間は75分程度でしたので,一部の曲は省略されていましたが,ピアニストの金子三勇士さん,ヴァイオリンのクリストフ・コンツさん,ソプラノの小林沙羅さん,バリトンのコンスタンティン・インゲンパスさんが登場する華やかさ。さらには,北野友里夏さんによるバレエも加わっていましたので,今年の音楽祭全体を圧縮したような充実感がありました。


演奏された曲は,小中学校の音楽室の壁に貼ってあるような音楽家の作品が次々登場する感じでした。4月29日は「昭和の日」ですが,印象としては「ロマンの香り」に加え,「昭和の音楽室の香り」も漂うような名曲集だったと思います。

最初に演奏されたウェーバーの「舞踏への勧誘」,最後に演奏されたリストのハンガリー狂詩曲第2番,途中で演奏された「大学祝典序曲」。これはどれれも有名曲ですが,OEKが演奏する機会は非常に少ないと思います。久しぶりにLPレコードを取り出して聞いたような懐かしさを感じました。

まず,このウェーバーで開幕。チェロのソロに続いて,開宴の気分にぴったりのワルツが快適なテンポ感でスタート。ワルツの部分が終わり,パラパラとフライングの拍手がはいりましたが,この曲の場合,「仕方がない」「想定内」といったところですね。

続いて,ソリストたちが続々と登場。まず,過去,何回もOEKと共演をしているソプラノの小林沙羅さんが登場し,管弦楽編曲版で2曲歌いました。メンデルスゾーンの「歌の翼に」はゆったりとした暖かみのある歌唱。シューベルトの「ます」は,クラリネットの伴奏が楽し気な雰囲気を作る中,最後の方,少しドラマティックな気分に盛り上がる感じが良かったですね。

ヴァイオリンのクリストフ・コンツさんは,弾き振りでクライスラーの「美しいロスマリン」を演奏。キリっとした表情とリラックスしたムードが合わさった美しい演奏でした。ちなみにこ日のコンツさんの出番は,この2分程度だけという贅沢さ。本公演に向けての絶好のPRになりました。

続いて金子三勇士さんのピアノ独奏で,シューマンの「トロイメライ」。最後,ゆったりと眠りに入っていくような深さを感じさせる,「大人のためのトロイメライ」といった感じの演奏でした。金子さんもこの曲だけの出演でしたが,「みゅーじ」という名前の由来などの楽しいお話を聞かせてくれました。

この日は(というか音楽祭期間中ずっとでした。コロナ対策の意味もあったのかもしれません),ステージ前方,客席に張り出すようにステージが増設されていました。このスペースを使って,金沢出身のダンサー,北野友里夏さんがバレエの1シーンを踊りました。踊ったのは,ショパンの「レ・シルフィード」の中の前奏曲。これもまた昭和の時代からお馴染みの「太田胃散」のCMでお馴染みのあの曲です(ちなみに,胃腸調ならぬイ長調です)。しっとりとしていながら軽やかな,風の精そのものの踊りを観て,正真正銘ロマンの世界だなぁ,感じ入りました。

その後,OEKと初共演となる,コンスタンティン・インゲンパスさんが登場。まだ若い歌手で,この方の歌を聞くのは初めてでしたが,とても品の良い美しさがあり,ドイツ・リートにぴったりだと思いました。歌った曲は,シューベルトの「菩提樹」と「魔王」。どちらも岩城宏之さん指揮OEKと往年の名歌手ヘルマン・プライさんが共演した懐かしのアレンジ。「菩提樹」は,全編に瑞々しい気分があり,「風と緑の5月」に聴くのにぴったりでした(その線で行くとシューマンの「詩人の恋」にもぴったりですね)。「魔王」の方は,大げさ過ぎない歌唱で,父,子,語り手の各キャラクターがバランスよく描き分けられていました。

ブラームスの「大学祝典序曲」は,50代以上の人には,ラジオ講座のテーマ曲としてお馴染み(私も該当しますが...番組の方は聞いていなかったですね)。まずファゴットで演奏されるテーマの部分だけ取り出して紹介されましたが,この部分もまた昭和の香りがする感じです。ただし,曲の最初の部分が省略されており,このファゴットのメロディから開始していたのは残念でした。OEKが演奏する機会は非常に珍しい曲なので(もしかしたら初めて?),どうせなら全曲聴きたかったですね。

続いては,ワーグナーとメンデルスゾーンの結婚行進曲の聴き比べコーナー。ワーグナーの方はやはり,合唱が入っていないと少し寂しいかもしれません。メンデルスゾーンの方も,やはり途中カットされている部分があったので,少々物足りない感じはありました。

最後は,リストのハンガリー狂詩曲第2番が演奏されました。弦楽器のたっぷりした響き,遠藤さんのクラリネットの闊達さなどを中心に,ケレン味なく爽快に鳴らされた演奏でした。最後の音のタイミングが少々ずれてしまいましたが,この曲の場合,その辺もご愛敬という感じでした。

最後アンコールとして,レハールの「メリーウィドウ・ワルツ」がインゲンパスさんと小林さんのデュオを交えて演奏されてお開きとなりました。この曲ですが,本来はテノール+もう少し重い声質のソプラノが歌う曲なので,この日の司会を務めていた,高柳圭さんと木村綾子さんに歌っても良かったのではと思いました。とてもスムーズでユーモアを交えての司会ぶりだったので,本職の歌の方も聞いてみたかったなと思いました。



PS. 今年もオープニングコンサートに先立って,オープニング・セレモニーが行われましたが,その顔ぶれが1年前と大きく変わっていたのが新鮮でした。ラ・フォル・ジュルネ時代から10年以上,石川県知事は谷本さんでしたが,今年からは馳知事に。そして金沢市長も村山さんに交替。村山金沢市長は,フルート奏者として4月24日に行われた「市民オーケストラ」公演に出演者として登場済。さらには,これからもエリアイベントにも登場されるとのこと。この展開は,3月の選挙の時には予想できなかったことですが,「楽都金沢」にとっては良いことかもしれませんね。

PS2.この日,春の叙勲の発表があり,音楽祭の実行委員長の池辺晋一郎さんが受章されました。この発表もオープニングセレモニーであり,馳知事から花束などを贈呈。さらにはウクライナから日本に避難している,テチアナ・ラヴロワさんと娘のヤナさんによるチェロの二重奏で,グリエール(ウクライナ出身の作曲家)の曲が演奏されました。メランコリックに揺れるような気分が深く印象に残りました。ちなみに,ラヴロワさん母娘(遠くからだと姉妹のように見えました)は,セントラル愛知交響楽団に加わって演奏するとのことでした。


オープニングファンファーレはコロナ禍前とは違い,石川県立音楽堂交流ホールで行なわれたようです。

というようなわけで,いつもにも増して,盛沢山なオープニング・セレモニーでした。今年は,音楽祭関係の協賛・来賓の方々がひな壇に乗っている形でなくなったも良かったと思いました。


この日は曇天。本公演は快晴続きだったので,音楽祭中,いちばん天候が悪かったのがこの日だったかもしれません。

(2022/05/13)