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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2022 レビュー・トップページ
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2022 【5月1日の公演】 

Review by 管理人hs  

この日は「吹奏楽の祭典」を金沢歌劇座で行っていたはずですが(悪天候のためしいのき緑地から変更になったはず),今年はこちらには行かず,石川県出身のコントラバス奏者岡本潤さんなど北陸縁の若手奏者を中心としたシューベルトのピアノ五重奏「ます」他を北國新聞赤羽ホールで聴いてきました。この曲は,シューベルトの作品の中でも特に親しみやすい曲ですが,この日の5人の演奏からは,アンサンブルする楽しさが生き生きと伝わってきました。



【エリア・プレイベント】シューベルト ピアノ五重奏曲「ます」
2022年5月1日(日)15:00〜 北國新聞赤羽ホール

1) ドホナーニ/弦楽三重奏のためのセレナーデ, op.10
2) シューベルト/シューベルト/ピアノ五重奏曲「ます」

●演奏
平野加奈(ピアノ),篠原悠那(ヴァイオリン),中村翔太郎(ヴィオラ),荒井結(チェロ),岡本潤(コントラバス)



今回の奏者の中で北陸新人登竜門コンサートに出演したことのある奏者は,コントラバスの岡本潤さん,ヴァイオリンの篠原悠那さん,チェロの荒井結さん,ピアノの平野加奈さんの4人。いずれもその時の演奏を聞いたことがあるので,私にとっては,その成長をしっかり確認することのできた公演となりました。ちなみにヴィオラの中村翔太郎さんだけは,石川県との関係はなく,岡本さん同様,NHK交響楽団に所蔵しているというつながりがあります。6年前,金沢蓄音器館で,岡本さんが出演する「ます」公演を聴いたことがあるのですが,その時もヴィオラとして中村さんが参加していましたので,岡本さんの「盟友」といった感じですね。



公演の方は「ます」に先だって,ヴァイオリン,ヴィオラ,コントラバスの3人で,ドホナーニの三重奏曲が演奏されました。こちらは全体に渋い雰囲気を持った作品でしたが,「ます」同様,5楽章構成で,変化に富んだ楽想をじっくりと楽しませてくれました。ハンガリーの作曲家ということで,少し民族音楽的な部分があったり,もの悲しい深い情緒を感じさせる部分があったり,とても聴きごたえがありました。本来はヴァイオリン,ヴィオラ,チェロのための曲とのことでしたが,全く違和感は感じませんでした。

「ます」の演奏ですが,第1楽章から,岡本さんのコントラバスを中心にどっしりとした落ち着きがあると同時に,生き生きとした流れの良い音楽が続きました。ヴァイオリンの篠原さんの演奏を聞くのは...本当に久しぶりのことですが,緻密かつ伸びやかな音は室内楽の世界にぴったりだと思いました。篠原さんが第1ヴァイオリンを務める,カルテット・アマービレは様々な国際的なコンクールで上位入賞されていますが,一度,実演で聴いてみたいものだと思いました。

続いては平和な気分に包まれた第2楽章。「仲間とアンサンブルできる」喜びが伝わってきて,しみじみと聞いていました。第3楽章はキリっとしたテンポ。途中,コントラバスとチェロが強い音で「ダダダダ」を気合(?)入れる部分がありますが,この部分はいつ聞いても楽しいですね。

有名な第4楽章は静かな気分で始まった後,次々と各メンバーが活躍。特に平野さんのピアノの息もつかせぬパッセージがお見事でした(「ます」が無呼吸で泳いでいるといったイメージか)。変奏の最後の部分で,各楽器がちょっとタメを作りつつ,弾むように演奏する部分があるのですが,この部分もとても楽しそうでした。

第5楽章のちょっとエキゾティックな舞曲が延々と続く感じは,シューベルトならではですね。最後の部分は胸のすくような気持ちよい雰囲気で締めてくれました。

ちなみにこの日の衣装の色は,「ます寿司」をテーマにしたとのことです。平野さんは見るからに「ます」でしたが,言われてみると,岡本さんと篠原さん方も,やや「ます」っぽいかなという感じ。中村さんは「ごはん」役ということで白。荒井さんは黒っぽい色でしたが,こうなってくると「緑」にしてもらって,「笹」役を担当してもらえれば,パーフェクトだったかもしれません。

今回のメンバーのうち何名かは,今後も音楽祭の本公演の方でガルガン・アンサンブルのメンバーとして色々登場されるとのこと。こちらも楽しみにしたいと思います。

(2022/05/13)