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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2022 レビュー・トップページ
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭20221【本公演1日目 5月3日】

Review by 管理人hs  

本公演1日目の金沢は「音楽祭日和」といった感じの快晴。今回,私は本公演3日目中心にチケットを購入したので,この日は,とりあえず,石川県立音楽堂の2ホール,金沢市アートホールのそれぞれ1つずつ,合計3公演にとどめました(体力温存のためです)。それでも,1日に3ホールというのは,この音楽祭ならでは。気持ちよく楽しむことができました。

 

 

 

【A11】
2022年5月3日(火祝)10:30- 金沢市アートホール

シューベルト/弦楽四重奏曲第14番ニ短調, D.910「死と乙女」

●演奏
松井直,上島淳子(ヴァイオリン),丸山萌音揮(ヴィオラ),大澤明(チェロ)

まず10:30から金沢市アートホールで,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の弦楽メンバー(松井直さん,上島淳子さん,丸山萌音揮さん,大澤明さん)によるシューベルトの弦楽四重奏曲「死と乙女」を聞いてきました。

  

第1楽章は落ち着いた威厳のある雰囲気で開始。この曲を実演で聴くのは久しぶりでしたが,改めて良い曲だなぁと思いました。第1ヴァイオリンの松井さんの節度のある美しい響きが印象的でした。

じっくりとした味わいのある第2楽章は特に聴きごたえがありました。長年OEKメンバーとして一緒に演奏してるメンバーならではの絶妙の空気感のようなものを感じることができました。CDなどで聴いていてもよく分からないのですが,小ホールでの公演だと,各楽器の音が和音となって組み合わさったり,線となって絡み合ったり,まさに有機的に変化していく感じがよく分かりました。

第2楽章以外は,切迫感のある雰囲気が中心の曲ですが,全体的にあまり声高になりすぎることはなく,落ち着いた深みを感じさせてくれました。第3楽章スケルツォを聞きながら,彫りの深さや,味が良く染みているなぁといったことを感じました。

第4楽章はほの暗く始まるのですが,途中から伸びやかな気分になり,微かに希望が見えてくる感じになるのが良いですね。なかなか終息しない,コロナ禍の状況と重ねて聞いてしまいました。演奏されたのはこの1曲でしたが,充実の40分でした。

 



その後は一旦,昼食を食べるに自宅に戻った後,15:00過ぎに,今度は石川県立音楽堂へ。金沢市の場合,市街地については自転車の移動でもそれほど時間がかからないのが良い点です。駐車場への出し入れの時間を考慮すれば,車よりも速いのではと思います。これも快晴だったこそ可能なことです。

 

15:50からは金子三勇士さんのピアノ,ミハイル・アグレストさん指揮OEKの公演へ。

 
【C13】
2022年5月3日(火祝)15:50- 石川県立音楽堂コンサートホール

1) シューベルト/交響曲第7番ロ短調, D.759「未完成」
2) リスト/ピアノ協奏曲第1番変ホ長調, S.124
3) (アンコール)リスト/コンソレーション第3番

●演奏
ミハイル・アグレスト指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)*1-2
金子三勇士(ピアノ*2-3)


まず,OEKと初共演(多分)のミハイル・アグレストさん指揮によるシューベルトの「未完成」交響曲。第1楽章は,ヌーッと出てきて,ゾッとさせるような不気味さのあるコントラバスの響きで開始。チェロで演奏される,第2主題など弱音で歌わせる美しいメロディの数々,などいたるところこだわりの表現がありました。第1楽章の最後は力強く短めの音で終了。

第2楽章でも,クラリネット,オーボエ,フルートと続く「聞かせどころ」では,抑制された美しさを感じさせてくれました。全体を通じて新鮮さのある演奏。これからも注目したい指揮者です

 

リストのピアノ協奏曲第1番では,何と言っても金子さんのピアノが素晴らしかったですね。金子さんは金沢で何回も演奏会を行っていますが,OEKとの共演を聞くのは...私自身初めてのことです。もしかしたら,こちらも初共演かもしれません。

第1楽章冒頭から,何か打楽器的な衝撃音を思わせる音で開始。OEKの明るい響きと絡み合って,開放的で鮮やかな演奏が続きました。第2楽章は,音楽祭のテーマどおりの「ロマンのしらべ」。内面のドラマを見せてくれるような歌に溢れていました。

第3楽章は「△協奏曲」の部分。トライアングルの燦めきとピッタリのピアノでした。OEKともども,意志の強さを感じさせる演奏が印象的でした。第4楽章は,グイグイと前に進んでいく堂々とした行進曲風。全曲を通じて,多彩なタッチと歌わせ方を駆使した,リストの魅力たっぷりのピアノに圧倒されました。そして,最後の部分では腕が1本増えた?と思わせるような迫力。ケレン味もあるけれども,一気に音楽が駆け抜けていくような爽快な後味が残りました。

アンコールではリストのコンソレーションが演奏されました。静かで高貴な歌がスーッと流れていくようでした。

金子さんの十八番のリストをOEKとの共演で聴けて大満足の公演でした。



石川県立音楽堂コンサートホールのステンドグラス風のガラスに光がさしていて,とても良い感じになっていました。ホールの中からは,ウェルカムのオルガンの音が聞こえてきて,「ここは教会?」という気分になりました。

 

音楽堂入り口で,明日のC24公演の開始時刻が少し遅くなるとのアナウンスを発見。この時刻ならば,H24の小林沙羅さん,コンスタンティン・インゲンパスさん,田中祐子さん指揮OEKに邦楽ホールでのシューベルト公演とのハシゴ可能に。せっかくなので聴きに行くことにしました。



その後,再度自宅に戻り,夕食を食べて,今度は邦楽ホールへ(C14の紅白歌合戦も聞きたかったのですが...)。

 

この紅白歌合戦の終演時間が延びたため,H14公演の開始時刻が30分程度遅くなりました。やはり,小曲中心でトークが入る公演だと,なかなか時間が読めない部分はありますね。

【H14】
2022年5月3日(火祝)20:15- 石川県立音楽堂邦楽ホール

1) ブラームス/ハンガリー舞曲第1番ト短調
2) ブラームス/ハンガリー舞曲第3番へ長調
3) ブラームス/ハンガリー舞曲第5番ト短調
4) シューマン/ピアノ協奏曲イ短調, op.54

●演奏
小松長生指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)
コルネリア・ヘルマン(ピアノ*4)


本公演1日目,邦楽ホールでの最終公演は,コルネリア・ヘルマンさんと小松長生さん指揮OEKとの共演による,シューマンのピアノ協奏曲を中心としたプログラム。この曲は特に好きな曲なので,聞き逃すわけにはいきません。

 
ヘルマンさんの演奏ですが,期待以上の素晴らしさでした。私が思う,シューマンのピアノ協奏曲のムードにぴったりでした。指揮の小松長生さんが語ったとおりクララ・シューマンが降臨したような演奏だったかもしれません。慌てることのない優雅な雰囲気と暖かな幻想味にすっかり惚れ込んでしまいました。

第1楽章冒頭からピアノの音には暖かみがありました。その後も,しっとりと響くオーボエにぴったり寄り添うようにじっくりと進んで行きました。中間部ではシューマンらしく気分が代わり幻想曲の雰囲気に。この部分も美しかったですね。

第2楽章は指揮の小松さんが演奏前之トークで「大好き」と語っていましたが,その思いが反映したような演奏でした。ピアノ〜チェロのあたりに漂うの濃厚な対話が素晴らしいと思いました。

第3楽章はしっかりと弾みつつ,優雅に進んでいきました。この楽章には,音階を上がったり下がったりといった部分が沢山ありますが,ヘルマンさんのピアノには柔らかな音の中に微妙な色合いの変化があり,「ロマンのしらべ」だなぁと思いました。鮮やかさと優雅さを兼ね備えた素晴らしい演奏だと思いました。

ヘルマンさんのピアノは過去,OEKの定期公演で聴いたことがありますが,実はあまり印象が残っていませんでした。今回の邦楽ホールでの演奏を聴いて,今度はリサイタルを聴いてみたいと思いました。



最初に演奏されたブラームスのハンガリー舞曲1,3,5番も心地よい推進力と緩急のコントラストが面白い演奏でした。第1番と第5番は何度聞いても格好良いし,滅多に演奏されない第3番もちょっと気まぐれな感じが面白いと思いました。演奏前の小松長生さんの予想外に熱いトークを聞きながら(ご自身で,「福井弁です」とおっしゃられて,少し納得(?)しました),そのとおりの演奏だなと思いました。

 

(2022/05/12)