OEKfan > 演奏会レビュー

いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2022 レビュー・トップページ
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2022【本公演2日目 5月4日】

Review by 管理人hs  

本公演2日目も音楽祭日和の快晴。まずは,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の木管メンバーによるアートホールでの室内楽...に行きたかったのですが,チェロの宮田大さんとコンツさん指揮セントラル愛知響の公演の方を選択(本当は「パーフェクト」に挑戦したいところもありましたが,3日間全体の体力を考えて野球の投手の「球数制限」のような感じでやっております)。

  

【C21】
2022年5月4日(水祝)11:20- 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲, op.56a
2) エルガー/チェロ協奏曲ホ短調, op.85
3) (アンコール)宮沢賢治(宮田大編曲)/星めぐりの歌

●演奏
クリストフ・コンツ指揮セントラル愛知交響楽団*1-2
宮田大(チェロ*2-3)

この日最初の公演は,初めて聞くエルガーの協奏曲が目当てでした。

 

エルガーのチェロ協奏曲は,ジャクリーヌ・デュプレの演奏で知られている曲ですが,その暗い雰囲気に親しめず,CDなどでもほとんど聞いてきませんでした。今回の宮田大さんのどこを取っても緻密で美しい演奏を聴いて,考えを改めてたくなりました。暗い運命に縁どられているけれども,その中にしなやかな強さを感じました。

第1楽章の最初に出てくるモチーフは,曲全体を通じての運命の主題といった感じ。憂いに覆われているけれども,曇った感じはせず,色々なキャラクターが次々と登場するように,曲想の変化がくっきりと分かりました。クリストフ・コンツさん指揮セントラル愛知交響楽団も,宮田さんのチェロにしっかりと共感しているようでした。

4つの楽章(最初の2つの楽章は連続して演奏されましたが)の中で,第3楽章は暖かな歌に溢れたような楽章。束の間の幸福を味わうようなはかなげな美しさがありました。エルガーという作曲家自身,「最後のロマン派」といったところもありますが,ロマン派の残像といった感じでした。

第4楽章は,再度不穏な気分に戻ります。ドラマティックな気分と美しさとが共存したような演奏を聞かせてくれました。ロマン派のチェロ協奏曲と言えば,ドヴォルザークが定番過ぎるぐらい定番ですが,これからは演奏会でもこの曲が演奏される機会が増えて欲しいなと思いました。

その後,宮田さんの独奏でアンコールで演奏されたのが,宮沢賢治の星めぐりの歌でした。エルガーの後だと,どこかイギリス民謡のようにも聞こえてしまいました。途中,バッハの無伴奏チェロ第1番の冒頭が出てきたので,おおっと思ったのですが宮田大さん自身のアレンジでした。

クリストフ・コンツさんは,この公演では純粋に指揮者として登場。とてものびのびとした大きな指揮の動作で,その雰囲気どおり,この日の青空のような抜けるような爽快感のあるブラームス「ハイドンの主題による変奏曲」を聞かせてくれました。



この日も一旦帰宅し,早めに夕食を食べた後,再度,音楽祭に戻りました。


邦楽ホール前のスペースでは,アクィユ・アンサンブルの皆さんが,「カムカムエヴリバディ」でお馴染みの「On the sunny side of the street」を演奏中でした。

【H24】
2022年5月4日(水祝)18:30- 石川県立音楽堂邦楽ホール

1) シューベルト(鈴木行一編曲)/歌曲集「冬の旅」〜「おやすみ」「川の上で」「春の夢」
2) シューベルト(ブリテン編曲)/ます
3) シューベルト(ワインガルトナー編曲)/夜と夢
4) シューベルト(レーガー編曲)/楽に寄す
5) シューベルト(モットル編曲)/セレナード
6) シューベルト(リスト編曲)/魔王
7) シューベルト(編曲者不明)/アヴェ・マリア(エレンの歌第3番)
8) シューベルト(編曲者不明)/野ばら
9) シューベルト(編曲者不明)/子守唄
10) (アンコール)ジィーツィンスキー/ウィーンわが夢の街

●演奏
田中祐子指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)
小林沙羅(ソプラノ*2-3,7-10),コンスタンティン・インゲンパス(バリトン*1,4-6,10)


小林沙羅さん,コンスタンティン・インゲンパスさんの歌唱は,オープニングコンサートで一度聞いていましたが,そのPR効果で,「もっと聞いてみたい」と思い,この公演も聞きに行くことにしました。当初,C24の小山実稚恵さんの登場するコンサートホールでの公演の開始時刻が,H24からのハシゴがギリギリ難しそうだったので,この公演を選びにくかったので,ギリギリに変更するならば,当初からハシゴを想定してくれれば良かったかなと思いました。

 

公演の方は,インゲンパスさんと小林さんが交互に登場しました。

最初にインゲンパスさんが登場し,OEKの財産演目である,鈴木行一編曲による管弦楽版「冬の旅」から3曲が歌われました。インゲンパスさんの声の素晴らしさは既に分かっていましたが,邦楽ホールで聞くとさらにその素晴らしさを実感できました。特に高音域が美しく,等身大の青年の歌として聞くことができました。「春の夢」では,フルートに続いてインゲンパスさんの声が出てきますが,物思いに沈んでいくような春の雰囲気にぴったり。このまま全曲を聞きたくなりました。

続いて小林沙羅さんが登場。「ます」を聞くのは,オープンニング・コンサートに続いて2回目ですが,表情の変化がより鮮明に分かり,よりドラマティックに聞こえました。「夜と夢」(調べてみると,往年の名指揮者フェリックス・ワインガルトナーによる編曲版)はこれまで聞いたことがなかったのですが,とても良い曲だと思いました。とてもシンプルな曲で,どこか遠くの別世界から聞こえてくるような雰囲気があると思いました。まさに「ロマンのしらべ」といった小林さんの歌唱でした。

その後,再度インゲンパスさんが登場し,「楽に寄す」「セレナード」「魔王」という名曲を歌いました。輝きのある声がどれも素晴らしかったのですが,特に真摯なムードで歌う「セレナード」は,曲想にぴったりだと思いました。

最後のコーナーは,小林さんの歌で「エレンの歌第3番」(ここは普通に「アヴェ・マリア」と書いてある方が親切だと思いました),「野ばら」「子守唄」。最初の2曲は,管弦楽伴奏に応じて,ピアノ伴奏で歌うよりは,よりドラマティックでスケールの大きな歌になっていたのでは,と思いました。「子守唄」は,母親が歌うリアルな子守唄だなぁと思いました。

アンコールでは,シューベルトがウィーン生まれてウィーンで亡くなったことにちなんで,ウィーンの音楽の定番,「ウィーンわが夢の街」が2人で歌われました。

PS. この公演の直後,C24への移動が控えていましたので,正直なところ,曲の途中に入る池辺さんのトークはもう少し短くして欲しかったかなと思いました(池辺さんの音楽生活の節目節目で,なぜかシューベルトの音楽と巡り会ってきたというお話はとても面白かったのですが...)。

開演5分前のアナウンスが流れる中,無事コンサートホールに移動し,小山実稚恵さんのピアノ,ユベール・スダーンさん指揮東京交響楽団による本公演2日目の最終公演へ。私にとって,スダーンさんと東響の名コンビの演奏を聴くのは今回が初めて。東京交響楽団の演奏を実演で聴くのも,1990年代の岩城宏之さんと大友直人さんによるOEKとの合同演奏以来のことでした。個人的には,この公演がこの日のハイライトでした。そして,その期待どおりの素晴らしい演奏を楽しむことができました。

 

【C24】
2022年5月4日(水祝)19:35- 石川県立音楽堂コンサートホール

1) リスト/交響詩「レ・プレリュード」, S.97
2) ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番ハ短調, op.18
3) (アンコール)ショパン/ノクターン,op.9-2

●演奏
ユベール・スダーン指揮東京交響楽団*1-2
小山実稚恵(ピアノ*2-3)


ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番に先だって,リストの交響詩「レ・プレリュード」が演奏されました。この曲は有名な曲ですが,第2次世界大戦の時にナチ政権下のドイツで宣伝用の音楽として使われていた反動で,実演で演奏される機会の少ない作品です(作品の成立とは無関係なので,とても不幸なことだと思います)。私自身,生で聴くのは多分今回が初めてです。

この日の東響の編成はかなり大きく,冒頭の弦楽器によるピチカートのくっきりとした音を聴いて,まず素晴らしいと思いました。オーケストラのサウンド全体について,何か高規格のエンジンが搭載された高級車に乗っているようなゆとりを感じました。全奏時の迫力も素晴らしかったのですが,非常によく通るオーボエ,くっきりと響くホルン...と各パートの音も素晴らしく,さすが複数のプロオーケストラがしのぎを削る東京のオーケストラだなぁと思いました。

スダーンさんの指揮には,常に熱さを秘められており,曲のクライマックスに向けて,大きく盛り上がるスケールの大きな音楽を聴かせてくれました。音の盛り上がり方にグラデーションが感じられ,すべてコントロールされているんだなぁと感じられる一方で,底知れぬ迫力も感じました。



PS. 邦楽ホール行く途中の廊下には,OEKとIMAのブースがありました。OEKのブースには,メンバーのカードが並んでおり,お好みのメンバーで小アンサンブルを作れるようになっていました。通るたびに,ちがった組み合わせになっていました。

 

 



(2022/05/13)