クラシック音楽のコンサートの楽しみ方:芸術文化サポータのすすめ 本文へジャンプ
はじめに

私がオーケストラ・アンサンブル金沢のコンサートに行く理由                                                  

私の住む金沢市には,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)という室内オーケストラがあります。OEKは1988年に指揮者の岩城宏之氏のリーダーシップの下に石川県と金沢市によって設立された比較的新しいオーケストラです。新しいといってもいつの間にか十八年の歴史を持ち,今では石川県の新しい文化の一つとなっています。そのことは,最近の定期公演(どの演奏会でもというわけではなく定期公演です。)での聴衆の暖かい拍手を聴けば理解できます。OEKが出来てから十八年で金沢の聴衆は良い聴き手に変貌しました。OEKには設立以来「友の会」という組織があり,主に定期公演の聴衆としてOEKの活動を支えてきました。2001年に新本拠地ホール石川県立音楽堂が完成してからは「友の会」は「定期会員」に名前を変え,音楽専用の立派な新ホールでクラシック音楽を聴くという場所の魅力も加わりました。演奏会の回数も増えてきましたので,定期会員にとって,OEKをはじめとしたクラシック音楽の演奏会はなくてはならない生活の一部になっています。そのことが拍手に表れているのです。そういう,友の会会員や定期会員の味わっている楽しみをより多くの人に知ってもらいたい思い,この本を書くことにしました。

私自身,専門的な音楽教育を受けていない,ただの(かなり熱狂的ではありますが)コンサートゴーア(演奏会の常連)です。もちろん,OEKを聴き続ける中で知識と経験は増えてきましたが,音楽的な素質の面では一般の人と大差はありません。難しい理屈を使った説明はできませんが,「堅苦しい」と敬遠されがちなクラシック音楽のコンサートの楽しみ方を優しく説明するという点ではかえってふさわしいと自負しています。

私がクラシック音楽のコンサートに行くのは,次の4つの楽しみを味わうことができるからです。
  1. 音楽を生で聴く楽しみ
  2. 曲を勉強する楽しみ
  3. レビューする楽しみ
  4. 応援しながら聴く楽しみ
これらのことは,基本的にはクラシック音楽のみならず,ポップス,ジャズといった音楽全般,演劇・バレエといった舞台芸術全般にも当てはまると思います。そのためにこの本のサブタイトルには「芸術文化サポーター」というより広義な用語を使いました。

この中では,4に関連するのですが,同じ団体やアーティストを繰り返し聴くことにより,鑑賞の軸のようなものが出来てくることが重要なポイントです。聴き続けることによって,ブランド指向的な聞き方とは一味違った贅沢な楽しみを味わうことができます。それは「私がOEKを支えているんだ」という意識を持ちながら聞くようになるということです。しかも,お節介にも他の人にもその楽しさを伝えたくなります。これは,Jリーグなどのスポーツのサポーターの心理と近いものです。考えようによっては中毒的な症状ともいえます。このことが私がこの本を書いたいちばんの理由です。だから,この本では,OEKのことを事例とした我田引水的な記述が頻繁に出てくることになります。特に,後半の2章では,このような私の思いを伝えるために少し文体を変えてみました。

次章以下,この1〜4の楽しみを順に紹介していきましょう。ファンの立場からクラシック音楽のコンサートの楽しみ方をまとめたような本は,今までほとんどなかったのではないかと思います。しかし,同様の思いでコンサートを聴き続けている方は多いのではないかと思います。

4章で詳しく紹介しているとおり,私は,「OEK fan」というホームページを作り,OEKを応援しています。2001年9月の新ホール完成時にサイトを立ち上げ約5年になりますが,その間,約18万2千件(2006年8月現在)の閲覧件数がありました。ホームページというのは,私の考える「応援しながら聴く」ということを支援するには,非常に有用なトゥールです(反面,インターネットの世界のコミュニティの持つ問題点もありますが)。

本というのは基本的には著者から読者へのメッセージですが,ホームページは双方向のやり取りができます。これまでOEKの演奏会の感想を気軽に話題にできる場はありませんでしたが,このホームページにアクセスして頂ければOEKについてのいろいろな情報交換が出来ます。この本とセットにして,アクセスしてみて下さい。アドレスは次のとおりです。

http://www.oekfan.com/

今後もこの本で書いてきた考え方を基に,このページで随時更新していきたいと思っています。OEKをはじめとしてクラシック音楽のコンサートに出かけたことのない人は,是非,コンサートに出かけて自分の耳で確かめてください。この本がそのためのガイドとなることを願っています。

2006年9月6日  岩城宏之さんの74回目の誕生日に
OEKfan管理人hs
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