クラシック音楽のコンサートの楽しみ方:芸術文化サポータのすすめ 本文へジャンプ
【付録】 OEK十八番

OEKは室内オーケストラということで,フル編成オーケストラに比べるとレパートリー上の制限があります。そのためもあり,同じ曲が定期演奏会に何度も登場することがあります。そういった曲を「歌舞伎十八番」に習い,「OEK十八番」として紹介しましょう。ハイドン,モーツァルト,ベートーヴェンの有名交響曲については,OEKのレパートリーの核と言えますので,どの曲が「十八番」になっても良かったのですが,基本的には「1作曲家=1曲」としましたので,「運命」「ジュピター」「ロンドン」...といった重要曲が抜けています。

ここに上げた曲は,私が主観的に選んだ個人的な「十八番」ですが,その大半はCD録音もされていますので「OEK入門」としてお聞きになってみてください。以下,作曲者の年代順に紹介します。

1.バッハ,J.S.:G線上のアリア
                                                   
バッハの作品についてはOEKはそれほど多く演奏していません。2005年2月にはペーター・シュライヤーさん指揮の「マタイ受難曲」という記念碑的公演が行われましたが,ここでは,アンコール・ピースとしてよく演奏されている「G線上のアリア」を紹介しましょう。

この曲名は管弦楽組曲第3番の中の第2曲「エール」の通称です。いかにも胎教などに良さそうな「ポン,ポン,ポン,ポン」という落ち着いた通奏低音の動きの上にヴァイオリンが息の長い美しいメロディを歌います。このメロディは聞く人すべての心を落ち着かせてくれるような名旋律です。ヴァイオリンの旋律だけでなく,それに絡み合うメロディも非常に魅力的です。

この曲は現代楽器による演奏では,情感たっぷりに演奏されることもありますが,近年の古楽器を意識した演奏だとさらりと演奏されることの方が多くなっています。なお,この曲が「G線上のアリア」と呼ばれるのは,ウィルヘルミという人がヴァイオリン独奏版に編曲した際にヴァイオリンのG線(いちばん低い弦)だけを使ったためです。このヴァイオリン独奏版以外にもいろいろなアレンジで演奏されます。その他,鎮魂のための曲として演奏されることもよくあります。これは悲しいことですが,OEKもこの曲を鎮魂のために何度も演奏しています。

2.ホフシュテッター(伝ハイドン):セレナード
                                                   
従来ハイドンの作品と言われていたホフシュテッターという人の作曲による弦楽四重奏曲の中の一つの楽章です。ただし,一般的には「ハイドンのセレナード」と言わないと誰にも分かってもらえません。この曲は,今は亡き岩城宏之さんがアンコール・ピースとして好んで演奏していた作品です。

オーケストラで演奏する場合は当然,弦楽合奏だけで演奏されます。第1ヴァイオリン以外のパートがピツィカートで伴奏する上に,第1ヴァイオリンが非常に魅力的なメロディを歌っていきます。岩城さんは,この有名なメロディを全編ピアニシモの遅いテンポで演奏します。大切なものを慈しむような感じです。このピアニシモが本当に弱い音なのです。オーケストラがこれだけの弱音で演奏すると,お客さんの方も耳を澄まします。コンサートホールで聞いた時に美しさと緊張感は文章では描写しきれない素晴らしいさがあります。

3.ハイドン:交響曲第100番「軍隊」
                                                   
ハイドンの交響曲の代表として第100番を選んでみました。別に「100番=キリ番」だからというわけでは,ありませんが,全体に大変おめでたい雰囲気の曲となっています。ニックネームの由来となっているとおり軍隊ラッパのような音形がそのまま出て来たり,大太鼓,シンバル,トライアングルと鳴り物が賑々しく活躍します。ただし,騒々しいだけではなく,しっとりとした雰囲気や充実感のある響きもあり,円熟期のハイドンらしい,完成度の高いとなっています。

OEKの演奏では,プリンシパル・ゲスト・コンダクターのギュンター・ピヒラーさんの指揮による演奏が印象に残っています。第2楽章の信号ラッパの部分など,マーラーの交響曲第5番が始まるのではないか,と錯覚するほどの緊張感が走ります。

4.モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」
                                                   
モーツァルトの交響曲の代表はいちばんよく演奏されている第35番「ハフナー」を選んでみました。OEKはよく他のオーケストラと合同演奏会を行っていますが,その時によく「OEKの持ち歌」という感じで演奏されるのがこの曲とプロコフィエフの古典交響曲です。それほど手のうちに入った曲です。

よく演奏されるのは,OEKの編成をフルに生かせるからです。モーツァルトの交響曲は,後期の作品でもフルートが1本だったり,クラリネットやオーボエが抜けたり,ティンパニが抜けたりとOEKのフル編成を生かすことができません。この「ハフナー」は,OEKの編成にぴったりということと,序曲的な明るい曲想ということで,よく演奏されているのではないかと思います。

この「ハフナー」というのはザルツブルクの富豪の名前で,これらの曲は,このハフナー家のために書かれた曲ということを意味しています。ハフナー交響曲も,当初,セレナードとして書かれたのですが(通常のハフナー・セレナードと区別するために「第2ハフナー・セレナード」とも呼ばれています),別の演奏会で交響曲が必要になったために,モーツァルトはこの曲を4楽章の曲に改変したと言われています。冒頭の2オクターブの跳躍,そぞろ歩きのような第2楽章,力強いメヌエット,一気に終わるフィナーレと好感度抜群の作品です。

5.ベートーヴェン:交響曲第7番
                                                   
ベートーヴェンの交響曲は全曲選びたかったほどです。2004年末,2005年末に東京で「一晩で全曲演奏」に挑戦した岩城音楽監督は,OEKとも何度もベートーヴェンの交響曲を演奏しています。その中で特によく演奏しているのがこの7番です。国内外を問わず,演奏旅行のメインとしてよく演奏されていますので,歯磨きセットなどと一緒にOEK団員の「旅行カバンに入った曲」と言えます。

ベートーヴェンの交響曲にはニックネームの付いたものがいくつかありますが,付いていない曲の中ではいちばん人気のある曲です。「運命」「田園」などがあまりにポピュラーになった現在,ニックネーム無しのこの曲あたりが,かえっていちばん人気があるかもしれません。そういう区別をするまでもなく,ベートーヴェンの革新的な側面のよく出た名曲です。

この曲の魅力は,何といってもリズムにあります。この曲については,作曲家のリストは「リズムの神化」と呼び,ワーグナーは「舞踏の聖化」と呼んでいます。その他,ディオニソス的な曲と呼ばれることもあります。このディオニソスというのは,ギリシャ神話に出てくる酒の神様の名前で,バッカスとも呼ばれます。この曲は,単純に言うと,盛り上がった宴会のような音楽といえます(ちなみに,「ディオニソス的」の対になる言葉は「アポロ的」です。ベートーヴェンの第4番あたりがそう呼ばれることが多いようです。)。第2楽章はちょっとしんみりとした雰囲気になりますが,それ以外は勢い良く一気に曲が流れていきます。ノリの良さ,という点では,ベートーヴェンの交響曲のみならず,あらゆる交響曲の中でも一番かもしれません。

6.シューベルト(鈴木行一編曲):冬の旅(管弦楽伴奏版)
                                                   
シューベルトの有名な交響曲にはトロンボーンが入りますので,ベートーヴェン,モーツァルトの作品に比べるとOEKが取り上げる機会は比較的少なくなっています。その代わりにここでは,管弦楽伴奏版「冬の旅」という変り種を選んでみました。これは,今は亡きドイツの名バリトン歌手ヘルマン・プライさんとOEKが共演するために鈴木行一さんが編曲したものです。この公演は,ヨーロッパ各地でも演奏されました。

鈴木さんの編曲は,各曲の特徴を強調し,分かりやすく聞かせてくれるものなので,ピアノ伴奏によるオリジナルよりもむしろ親しみやすいかもしれません。その結果,シューベルトの曲がマーラーの管弦楽伴奏付きの歌曲のように響くようになったのは大変面白いことでした(最後の「辻音楽師」などまさにマーラーのようです)。

この曲はシューベルトの死の前年に作曲された24曲からなる歌曲集です。全編に漂う孤独感と暗鬱さはすべての歌曲の中でも独特の地位を占めています。ヴィルヘルム・ミュラーの詩に曲がつけられている点では,シューベルトのもう一つの連作歌曲集「美しい水車屋の娘」と同様ですが,雰囲気は対照的です。曲全体としては,第1曲「おやすみ」に出てくる歩行のリズムが全曲を通じて,形を変えて現れてきます。聞き手は,主人公とともに心の旅を続け,最後の曲では大きな共感を持つことになるでしょう。

OEKが,この曲をヘルマン・プライさんと共演したすぐ後にプライさんは亡くなってしまいましたので,その時の録音は,プライさんの最晩年の境地を伝える貴重なものとなりました。2004年の定期公演では,プライさんの息子のフローリアン・プライさんとの共演でこの編曲版の再演が実現しました。これも面白い因縁です。

7.シュトラウス,J.I:ラデツキー行進曲
                                                   
OEKのニューイヤーコンサートもすっかり金沢に定着しています。ウィーン・フィル同様,シュトラウス・ファミリーのワルツ,ポルカが演奏された後,このラデツキー行進曲で締められるという構成になっています。

OEK版の特徴は,コンサート・マスターのマイケル・ダウスさんの弾き振りで行われるということです。ワルツのような流れるような動きのある曲の場合,作曲者のシュトラウス自身がそうであったように,体全体を使っての弾き振りの方が様になるような気もします。

毎回,このコンサートの最後に演奏されるラデツキー行進曲は,OEK版の場合,とても遅いテンポです。このテンポだと大変のどかに手拍子をすることができます。OEKの設立当初からコンサートマスターとしてOEKを引っ張ってきたマイケル・ダウスさんは,2005年冬にOEKのコンサート・マスターの地位を退かれました。その功績への感謝の気持ちを込めて,この曲を選んでみました。

8.ブラームス:交響曲第3番                                                   
OEKはトロンボーンのない室内オーケストラですので,通常はブラームスの交響曲を演奏することはないのですが,ここ数年,岩城音楽監督の指揮で定期的に取り上げてきました。コントラバスなどは増員していますが,ヴァイオリンなどはそれほど数を増やさず,OEKのフル編成に近い形で演奏しています。もう一つの特徴は初演時の配置で演奏していることです。コントラバスが正面奥に並んでいてびっくりしたりしますが,これもコンサートならではの楽しみです。

ブラームスの交響曲は,第4番,第2番,第1番の順に定期公演で取り上げられ,岩城さん最晩年の演奏となってしまった2006年3月の定期公演で演奏された第3番で完結しました。そのどれもが名作ですが,ここでは,岩城さんの執念を感じさせてくれた第3番を選んでみました。

この第3番は,すべての楽章が静かに終わるのが,ブラームスの他の交響曲と違う点です。そのため全曲に渡って「晩秋」「夕陽」「諦観」といった枯れて悟ったような雰囲気があります。岩城さん追悼の1曲です。

9.チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
                                                   
チャイコフスキーのオーケストラ曲といえば大編成という印象があります。実際,交響曲の場合,OEKが演奏する場合はかなり大々的な増員をしないと演奏できないのですが,その中で比較的少ない増員で演奏できる曲があります。それがこのヴァイオリン協奏曲です。この曲自体,とてもスケールが大きな雰囲気がありますので,少々意外ですが,ホルンを2つ追加すればOEKの編成でも演奏可能です(この曲はトロンボーンが入らないのです)。OEKの演奏するチャイコフスキーといえば弦楽セレナードも入れたかったのですが,この意外性を買って,ヴァイオリン協奏曲の方を選んでみました。

実際とてもよく演奏されています。戸田弥生さん,潮田益子さん,アナスタシア・チェボタリョーワさんといった女性奏者と共演していますが,OEKファンならば,マイケル・ダウスさんによる弾き振りというのが記憶にあるかもしれません。この曲の弾き振りというのはダウスさんとOEKならではの演奏と言えそうです。

この曲は,すべてのヴァイオリン協奏曲の中でも特に人気の高い曲です。人気の点では,メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調と双璧です。この2曲はLPレコード時代から組み合わせて収録されることが多く,(2曲あわせて)「メン・チャイ」の略称で親しまれてきました 。ベートーヴェン,ブラームス,メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲と合わせて「四大ヴァイオリン協奏曲」と呼ばれることがありますが,旋律の美しさ,躍動感のある名技牲を堪能できる点では随一の曲でしょう。

現在では押しも押されぬ名曲なのですが,最初,この曲を献呈しようとした名ヴァイオリニスト,アウアーからは「演奏不能」の烙印を捺され,ウィーンでの初演も酷評されています。今から考えると信じられないことですが,名曲にはこういうことがよくあるようです。

10.ビゼー:交響曲第1番
                                                   
この曲はOEKにとって記念すべき曲です。OEKの設立記念演奏会は1988年11月に岩城音楽監督の指揮で行われたのですが,翌1989年の1月(元号が昭和から平成に変わった月です)にOEKの初代常任指揮者である天沼裕子さんのデビュー・コンサートというのが行われました。これは設立したばかりのOEKと新人指揮者の天沼さんに対する大きな期待とが合わさったような記念碑的な演奏会でした。そのメインで演奏されたのがこのビゼーの交響曲でした。若々しさと瑞々しさをいっぱいに感じさせる選曲ということで,私にとっては,設立当初のOEKのイメージはこの曲とピタリと重なります。というわけで,この曲を十八番から外すわけにはいきません。

この曲はまさに「愛すべき交響曲」です。人気投票をやってみたら好感度ナンバーワンになりそうな交響曲です。演奏時間は30分ほどかかりますが,爽やかな風が一気に吹き抜けていくような魅力にあふれています。ブルックナー,マーラー,ショスタコーヴィチといった長い交響曲がもてはやされている現代ですが,そういった曲とは正反対のキャラクターを持っており,ロマン派の交響曲群の中で独自の地位を占めています。

この曲は,何とビゼー17歳の時の作品です。彼がパリ音楽院に在学中に作曲したもので,かなり長い間埋もれていたのですが,初演された途端,一気に名曲となってしまったというのも面白い点です。

11.ビゼー(シチェドリン編曲):カルメン組曲
                                                   
この曲もOEK十八番から外すわけにはいきません。OEKは近年,ワーナー・ミュージック・ジャパンから積極的にCDを発売していますが,1990年代前半にはドイツ・グラモフォンからCDを発売していた時期があります。ドイツ・グラモフォンと言えば,カラヤン,ベーム,バーンスタインといった巨匠がベルリン・フィルやウィーン・フィルとレコーディングを行っていたレーベルということで,CD発売当時は,非常に驚きました。その最初の1枚に収録されていたのがこのシチェドリン編曲のカルメン組曲です。このCDはシュニトケの合奏協奏曲第1番とカップリングされており,その年のレコード・アカデミー賞の日本人演奏部門を受賞しています。その後のOEKの積極的なCD録音への弾みをつけた1枚といえます。

特にシチェドリン版カルメンの方は,その後もたびたび演奏されています。OEKのカルメンといえば,オリジナル版ではなく,シチェドリン版が思い浮かぶほどです。このシチェドリン版は,オペラ「カルメン」をバレエ音楽用に編曲されたものなのですが,弦楽合奏と打楽器だけしか使っていない点が大きな特徴です。ちなみに編曲者のシチェドリンの奥さんは有名なバレリーナのマイア・プリセツカヤで初演も彼女によって1967年にボリショイ劇場で行われています。

弦楽器の方はロマンティックな雰囲気をそのまま維持し,比較的普通に演奏しているのですが,それに打楽器がちょっかいを出すような感じで加わり,シリアスな中にもユーモアを感じさせながら進んで行きます。管楽器が入らない分,音色は地味になるのですが,それを補うほどの起伏とダイナミックさに富んだアレンジがされています。

12.シュトラウス,R.:組曲「町人貴族」
                                                   
R.シュトラウスも大編成の作品を沢山書きましたのでOEKの通常の編成では演奏できないのですが,その中で唯一ぴたりとはまっているのがこの「町人貴族」という作品です。ピアノが入ったり,トロンボーンが1本入ったりはしますが,R.シュトラウスの曲の中でも独自の地位を占める,軽妙な作品となっています。

この「町人貴族」という作品は,もともとはモリエール原作の古典劇をもとにホフマンスタールが台本を書いた劇のための音楽でした。その演劇版「町人貴族」を2つに分け,後半を「ナクソス島のアリアドネ」というオペラに改作し,前半からは9曲を選んで組曲にしています。現在,一般に「町人貴族」と呼ばれているのは,この組曲版です。

劇は風刺的な内容で,曲の方も軽快なノリの良さを持っています。現代的な感覚とロココ的な典雅さとが合わさった精緻な音楽にはシュトラウスの職人芸の粋が集められています。弦楽器が少ない一方で打楽器やピアノやトロンボーンがしっかりと加わるという独特の編成ですので,音の響きも独特です。このこともこの作品の魅力の一つです。

13.ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調
                                                   
OEKが演奏するラヴェルのオーケストラ曲としては,「クープランの墓」「マ・メール・ロア」という作品もありますが,演奏頻度的にはこの曲の方が上回っています。ラヴェルはもう一つ,左手のための協奏曲というピアノ協奏曲も作っていますが,このト長調の曲の方が編成的にも小振りです。古典的なバランスのあるディヴェルティメント的な雰囲気の曲ということで,OEKにもぴったりです。

当時流行のジャズ的な雰囲気,複調的な雰囲気,ラヴェルの故郷のバスク地方の民俗的雰囲気などを併せ持ち,独特の味のある協奏曲となっています。3楽章の主題が「ゴジラ」のテーマとそっくりなのも印象的です。

14.プロコフィエフ:古典交響曲
                                                   
OEKの十八番中の十八番といえばこの曲でしょう。かつて朝比奈隆指揮大阪フィルがブルックナーの交響曲を繰り返し演奏していたのと同じような感じで,この曲は岩城宏之指揮OEKによって繰り返し演奏されてきました。この曲は「ハイドンが生きていたら書いていたような作品」とプロコフィエフ自身語っているとおり,古典的な構成の中に現代の感覚を詰め込んだ作品となっています。このことはOEKの演奏会のコンセプトと一致します。モーツァルトの「ハフナー」の項で書いたとおり,OEKの代名詞のような曲と言えます。

この曲は「現代人が住んでいる古い町」という言葉で例えられることもあります。全曲を通じて,意表を突くような転調の面白さや不思議な感覚が溢れ,パロディ音楽のような粋なユーモア感覚が散りばめられています。現代的というよりは未来的な雰囲気さえ感じさせる,非常にモダンな感じの曲です。

OEKはこの曲のCD録音を残していますが,カップリングされているジュリアン・ユー編曲の室内オーケストラ版「展覧会の絵」も十八番に入れたかった曲です。こちらもまた独特の感覚を持った編曲となっています。

15.武満徹:弦楽のためのレクイエム
                                                   
OEKの岩城音楽監督といえば,日本の現代音楽の「初演魔」として有名です。その中でも武満徹さんの作品の指揮者として国際的にも知られています。その武満さんは,コンポーザー・イン・レジデンス(座付き作曲家)としてOEKのための作品を作曲される予定だったのですが,残念ながら任期途中に亡くなられてしまいました(ちなみにその翌年のコンポーザー・イン・レジデンスの黛敏郎さんも任期途中に亡くなられ,変なジンクスができたのですが,その翌年池辺晋一郎さんが見事ジンクスを破ってくれました)。その武満さんの追悼ために演奏されたのがこの曲です。

OEKがシリーズでCD録音をしていた「21世紀へのメッセージ」シリーズも本来は武満さんの新作が入る予定でしたが,作曲が未完に終わりましたので,やはりこの弦楽のためのレクイエムが収録されました。OEKによる,2004年末に起こったスマトラ沖大地震・津波の被災者のためのチャリティ・コンサートでもこの曲が演奏されました。この曲は「G線上のアリア」同様,追悼のための音楽の定番になりつつあります。悲しみだけではなく,刺すような痛さも感じさせてくれるような武満の出世作です。

16.外山雄三:ディヴェルティメント
                                                   
外山雄三は,武満徹と同世代の作曲家ですが,岩城音楽監督とほぼ同じ時期にNHK交響楽団の指揮者としてデビューを果たしたせいか,お二人の間には「盟友」という強い意識があるようです。外山指揮仙台フィルと岩城指揮OEKによる合同演奏会という面白い企画も数年前に行われました。

その外山さんの作品と言えば,NHK交響楽団の海外公演のアンコール・ピースとして作曲された「ラプソディ」が有名ですが,その姉妹作とも言える「ディヴェルティメント」をOEKはしばしば演奏しています。この曲は岩城さんの依頼で1961年に作曲された曲で「ラプソディ」同様,日本民謡が各楽章のモチーフとして使われています。1楽章は「ドンパン節」,2楽章は「ひえつき節」といった具合です。OEKがアンコールとして演奏するときは静謐な美しさのある第2楽章が演奏されることが多いようです。

17.西村朗:鳥のヘテロフォニー
                                                   
OEKは上述のとおりコンポーザー・イン・レジデンスの制度を取っており,毎年,OEKのために新作が作曲されています。それらがすべてOEKの財産になるのですが,その中でいちばんよく演奏されているのが西村朗作曲の「鳥のヘテロフォニー」です。初演者の岩城宏之指揮OEKは,現代作品としては異例なほど,この曲を再三実演で取り上げており,OEKのレパートリーとして定着させました。 

西村氏は「〜のヘテロフォニー」というタイトルの曲をいくつか作っています。この語を辞書で調べてみると「同一の旋律を複数のパートが少しずつ違ったやり方で同じに進行すること」と書いてありました。分かったような分からないような説明ですが,同じではないけれども似た旋律をいろいろな楽器で同時に演奏して,効果を出すということになります。

ただ,曲の方は,それほど難解ではなく,響きやリズムの多様性を満喫できる曲になっています。「鳥」を題材とした曲の中でも面白い曲の一つなのではないかと思います。西村氏がCDのライナーノートに書いているとおり,インドネシアのガムランやケチャといった楽器の影響も受けており,熱帯的で原始的な雰囲気も漂っています。20世紀後半の日本の管弦楽曲の中では(OEKのお陰で),もっとも頻繁に演奏されている曲の一つとなっています。

18.渡辺俊幸:NHK大河ドラマ「利家とまつ」〜メイン・テーマ「颯流」
                                                   
西村作品とは別の意味でOEKが再三演奏しているのが「利家とまつ」のテーマです。この曲は,2002年のNHK大河ドラマ「利家とまつ:加賀百万石物語」のための音楽として渡辺俊幸さんによって作られたものですが,その曲があまりにも素晴らしかったので,放送終了後もOEKのテーマ曲のような感じでたびたびアンコール・ピースとして演奏しています。OEKにとっても渡辺さんにとっても幸運な出会いだったと言えます。その後,渡辺さんはOEKのポップス関係のコンサートの指揮者としてたびたび登場するようになりました。

従来の大河ドラマでは,毎週,最初に流れるメインテーマをNHK交響楽団が演奏し,それ以外の挿入曲はスタジオ・ミュージシャンが演奏していたのですが,この「利家とまつ」に限っては,「加賀百万石」の縁もあり,OEKが挿入曲の演奏にも参加しています。テーマ曲はNHK交響楽団との合同演奏でしたが,それ以外のサントラ盤に収録されている主要テーマは,OEK単独の演奏となっています(もちろん,実際の放送にはサントラ盤に収録された曲以外も使われていますが)。

このテーマ曲の「颯流」(「そうりゅう」と呼びます)は,「風と共に去りぬ」のタラのテーマを思い出させるようなスケール感のある流麗なもので,NHK大河ドラマの音楽の歴史の中でも特に親しみやすい曲となっています。

   (C)OEKfan 2006